これから不動産投資を行おうと思っている人、実際に投資を行っている人の多くは、本やセミナーから多くの情報を得ます。しかし、その情報は本当に正しいのでしょうか。実は不動産業界には、まことしやかに語られる “嘘”が蔓延しているのです。本記事では、不動産の「税金対策」に関連した嘘を紹介します。

節税目的のはずが、かえって損をすることに…

「新築の区分マンションを購入して節税しましょう」という営業トークを耳にしたことがある人は多いでしょう。筆者にもよく同じような営業電話が来ますが、新築区分マンションで節税対策というのは、まったくお薦めできません。

 

新築区分マンションの営業マンが言うのは、「節税対策」をはじめ、「将来の年金代わり」ですが、どちらも嘘です。新築の場合ですと、要するに「マイナスを出して所得税が下がる」「所得税還付」を狙っています。

 

まず、所得税の還付について簡単に説明します。給与等から源泉徴収された所得税額や予定納税をした所得税額が年間の所得金額について計算した所得税額よりも多いときは、確定申告をすることによって、納め過ぎの所得税が還付されます。

 

つまり、不動産投資で利益どころか損失を出しているため、税金が戻ってくるのです。給与収入の高い、所得税率の高い方であれば、還付金はあれば助かりますが、でも、それは一面しか見ていません。

 

節税目的で始めた新築区分マンション投資は、ローンの支払いに管理費・修繕積立費といった支払いが月々の家賃収入を上回るケースがほとんどです。

 

ローンを支払うとそのマイナス部分がかなり大きなこともあるので、節税した効果と、その新築物件を買った投資の赤字、通算して考えてみると損をしているケースが大半です。これでは、やっている意味がまったくありません。

 

ひどいケースになれば、収支の合わない、かつ担保価値の低い新築区分マンションを持っていることで、債務超過となり、融資を受けられなくなることもあります。こうなると、利回りの良い物件を買って、新築マンションの損失を補塡しようと考えてもどうにもなりません。売却するしかないのです。

 

しかし、新築マンションは、人が住んだ瞬間に価値が下がります。フルローンで購入することも多く、たっぷり残債があるため、売却するとむしろ赤字になってしまうのです。今のような市況が良いときは、チャンスといえますが、それでも残債を下回る価格でしか売れないケースがほとんどです。

 

また、毎月損失の出ている物件を何十年所有した結果、年金代わりになるかといえば、最終的に残るのは築古の区分所有マンションです。メンテナンスコストもかかりますし、古くなればリフォームも必要でしょう。間取りタイプも古くなり、ニーズがあるのかといえば、それも難しいところです。

 

なぜ、このような物件を買ってしまうのかというと、おそらく営業力が強いからでしょう。

新築区分マンション投資は「失敗率」が高い

ただ、新築区分マンション投資が100%失敗というわけでもありません。つまり、その新築の区分マンションにも投資法がいくつかあるのです。最初から投資用という物件を購入するケース、タワーマンションやファミリータイプで、普通に居住用として売っているような物件を購入するケースです。

 

タワーマンションでファミリータイプの新築を買って、タイミングよく売り抜けて儲かっている人や、立地のいいマンションを買っていたので最終的にはプラスになったという人も実際にいます。ただそれは、本当に一握りの話です。

 

テレアポから営業電話かかってくるような物件は、失敗率が非常に高いので辞めた方がいいでしょう。

結果的に損をする可能性もある減価償却の活用

減価償却というのは、税金上、所有している資産(償却)が使っていくうちに価値が目減りしてくるような計算をして、毎年毎年、経費計上していくものです。

 

償却資産は、国によって法定耐用年数が定められています。例えば、法定耐用年数を超えた築古物件を個人で購入して、一気に引き落とす減価償却は、スナップショットで見れば節税できていますが、ビデオで見ると結果的に損をしている場合もあります。

 

<減価償却費の計算>

 

●法定耐用年数を全て経過したもの

法定耐用年数×0.2=残存耐用年数

 

●法定耐用年数を一部経過したもの

法定耐用年数−経過年数+(経過年数×0.2)=残存耐用年数

売却時の「簿価」が大きく減っていれば…

簿価というのは帳簿価額という意味です。現在の減価償却がどれくらい残っているかということです。

 

1000万円で買った物件を5年で減価償却した場合、毎年200万円ずつ経費計上していきます。そして3年後に売却します。3年間200万円を減価償却費として計上としているということは、簿価は400万円です。

 

さて、1000万円で購入した物件を3年後に半額の500万円で売却したとします。3年で半分まで値下がりしたということで、だいぶ損を出した気になりますが、簿価が400万円ということで、100万円儲かったことになります。

 

確定申告で減価償却していけば、その分だけ簿価も減っていきます。大きく減価償却費を使えると、節税できた気持ちになりますが、実際には簿価も大きく減っていきますから、売却時に利益が出やすくなるのです。

減価償却の方法は2種類

税金はすべて、帳簿上の数字で計算されます。そもそも減価償却とは何かというと、時間の経過とか使用によって価値が減少するものが、その年数ごとにどんどん帳簿上の価値が減少していくので、それを経費として引くことができるのです。

 

減価償却ができるのは建物だけで、土地は減価償却できません。土地は時間の経過で価値が減少するものではないからです。市況によって値段は下がる可能性はありますが、建物のように経年で劣化していくことはありません。

 

1000万円の物件で、帳簿上、土地が500万円、建物が500万円。この建物の500万円を、新築であれば、木造の場合は22年、RCの場合は47年かけて償却していき、最終的には建物の価値はゼロになります。したがって帳簿上、その不動産の価値は土地代だけの500万円になります。

 

減価償却には決まりがあり、固定資産税の減価償却の手法として、次の2種類の方法があります。

 

<減価償却の方法>

 

●定額法・・・固定資産の耐用期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法

 

●定率法・・・固定資産の耐用期間中、毎期期首未償却残高に一定率を乗じた減価償却費を計上する方法(最初に多く落とせる)

 

参考までに一例をあげると、緑化設備が20年、電気設備、給排水衛生設備、ブロックフェンスなどのエクステリアは15年、駐車場整備はコンクリ・レンガ・ブロック・砂利が15年で、アスファルトが10年、エアコンなどの一般的な住宅設備は6年です。なお建物の解体費は経費にも償却資産にもなりません。

 

よく使われている節税手法というのは、木造の耐用年数22年を超えた物件を購入した場合、その建物に関しては耐用年数×0.2の4年で償却できますので、建物が500万円の場合、この500万円を4年で償却、つまり500万÷4で、単純には毎年125万円を経費枠として落とすことが可能です。個人で購入している場合は課税所得が低くなります。

減価償却によって「税負担」が大きくなる場合も!?

ところが、減価償却を使うとその分だけ簿価も減っていくので、売るときにプラスになるケースが多いのです。物件価格の売却価格が買ったときよりも安くなっていたとしても、簿価がそれよりももっと減ってしまうと、帳簿上の利益が出てしまいます。

 

そこに個人の場合だと、短期譲渡税と長期譲渡税というのがかかってきます。それが短い期間で売ると、その利益に対しての税金が39%かかるわけです。だから短期間でプラスで売ってしまうと、税負担も大きくなります。

 

短期譲渡税と長期譲渡税ぐらいまでは、理解はしている人は多いと思います。しかし、時が経ってくると、減価償却もどんどん使っていくわけですから、簿価もどんどん下がっていく。だから安くして売ったとしても、利益が出やすいということです。それを、例えば5年未満で売ると、そこにまた4割近くの税金がかかってくるわけです。

 

特に区分マンションなどはそもそも利益が薄いので、そういうことをしていると、薄い利益が持っていかれてしまうということです。それを考えていないというか、知らない人が非常に多いのです。

 

本当に9割以上の人が、一瞬しか見ていないのです。目先のところだけしか見てない。ちゃんと出口まで、最後まで見るということをしないと、本当の節税効果はわかりません。

 

 

大村 昌慶

株式会社ダイムラー・コーポレーション 代表取締役

 

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本連載は、2016年6月30日刊行の書籍『不動産投資の嘘』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

不動産投資の嘘

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大村 昌慶

幻冬舎メディアコンサルティング

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