借金等のマイナス資産の相続を回避する「相続放棄」制度

今回は、被相続人のマイナス資産や負債を引き継がないようにする「相続放棄」の制度等について見ていきます。※すべての人の人生で必ず発生する法律問題、それが「相続」です。平成30年には、相続に関する法律として「配偶者居住権」をはじめ、相続人以外の功労者への特別寄与制度の創設など、約40年ぶりの大幅改正が行われました。本連載は、相続の基本から今回の法律の改定内容まで、わかりやすく解説します。

期限内に所定の家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を提出

第3回で述べたように、被相続人が死亡した場合、一定の「法定相続人」が、当然に、被相続人の遺産を、「法定相続分」の割合で承継します。

 

しかし、被相続人の遺産として、預金や不動産等のプラスの財産より借金の方が多い場合には、相続人は、自ら資金を工面して、被相続人の借金を返済しなくてはならず、相続人に酷な結果となります。

 

そこで、民法は、相続人が、被相続人が死亡し、自分が相続人となったことを知った時から三箇月以内に、家庭裁判所に、「相続の放棄」を申し出れば、最初から、相続人でなかったとして扱うことにしました。これが「相続放棄」の制度です。亡くなった被相続人の住所地の最寄りの家庭裁判所に、「相続放棄申述書」(図表1)を提出するだけの手続です。

 

[図表1]相続放棄申述書

 

しかし、被相続人が死亡したことを知った日から三箇月以内に手続をしなくてはなりません。亡くなった被相続人のプラス・マイナスの財産状態がよくわかっている場合ならともかく、財産状態を調査していたら、三箇月の期間などすぐに来てしまいます。被相続人にお金を融通した貸主などは、この三箇月の期間が経過するのを、じっと待ち構えていて、期間経過後に、「父親の借金を返せ」などと請求してくる場合があります。

 

そこで、被相続人の財産状態の調査に時間がかかりそうなときは、家庭裁判所に、三箇月の期間(「熟慮期間」と言います)の伸長を申し立てることになります(図表2)。しかし、この「熟慮期間」の伸長が認められるのは、その申立てをした相続人についてのみです。

 

[図表2]相続の承認又は放棄の期間伸長申立書

 

 

以上のように、「相続放棄」の手続は、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出するのみで認められるものですが、相続放棄の手続をした者が、その手続の前後を問わずに、被相続人の遺産に手をつけ、それを費消していたような場合には、「相続放棄」は「無効」とみなされ、被相続人に金を貸した債権者からの返還請求にも応じなくてはならなくなります。

 

所定の期間内に「相続放棄の申述」をした者は、初めから相続人ではなかったことになり、その申述者の子の代襲相続も生じません。

 

なお、この「相続放棄」の制度の他に、「限定承認」という制度もあります。これは、相続人は、被相続人の遺産の限度で、被相続人の借金を返済すればよく、相続人が持ち出しをする必要がなく、借金返済後に余剰があれば、相続人が取得できるという制度であり、相続人に有利な制度と言えます。しかし、「相続放棄」と同様に相続発生を知った時から三箇月以内に家庭裁判所に申し出なくてはなりませんし、しかも、遺産目録を作成・添付して、相続人全員で申し出なくてはならず、その後の手続も厳格であることから、あまり利用されていません。

相続人から相続資格を剥奪する「相続欠格」の制度

相続人が、自ら家庭裁判所に申し出ることによって相続人でなくなるのが「相続放棄」の制度ですが、相続人に、客観的に、一定の事由がある場合に、相続人でなくなるのが「相続欠格」の制度です。被相続人や相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡させて刑に処せられた者や、被相続人の遺言書を偽造したり、被相続人の作成した遺言書を破棄したり隠したりした相続人が、「相続欠格者」とされています。

 

さらに、相続人が被相続人に対して虐待をしたり、重大な侮辱を加えたり、著しい非行があった場合には、被相続人は、家庭裁判所に、その相続人の相続資格を剝奪する申立てをすることができます(図表3)。これが「推定相続人の廃除」の制度です。被相続人から「廃除」の申立てがあっても、裁判所は、実際に当該相続人に「廃除」事由があったかどうかを審理して、それが認められる場合に「廃除」を認めています。なお、被相続人の相続人がその兄弟姉妹である場合には、この「廃除」の申立ては認められていません。なぜなら、後述するように、兄弟姉妹には、遺言の場合の遺留分がありませんので、被相続人が、遺言で、「廃除」事由のある兄弟姉妹に遺産を取得させないようにすればよいからです。

 

[図表3]家事審判申立書 事件名(推定相続人排除)

 

この「相続欠格」と「相続人廃除」の場合、「欠格者」や「廃除者」とされた相続人自身は、相続人ではなくなりますが、その子供たちは、「代襲相続」によって、相続人となり、遺産を承継できます。

 

<ここまでのポイント>

 

●人が死亡した瞬間に、一定の相続人が、一定の相続分で、死亡した人(被相続人)の遺産を承継する

 

●「相続人」としては、配偶者は常に第一順位であり、それとともに、第一順位が子(孫)、第二順位が父母、第三順位が兄弟姉妹である

 

●相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等に尽力した場合、各相続人に対して、特別寄与料の金銭支払請求ができることになった

 

●法定の「相続人」がいない場合には、遺産は、原則として、国のものとなる

 

●「相続分」としては、配偶者と子(孫)が相続人の場合は二分の一対二分の一であり、配偶者と父母が相続人の場合は三分の二対三分の一であり、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は四分の三対四分の一である

 

●被相続人の配偶者が、被相続人所有の建物に同居していた場合、最低六箇月はその建物に無償で居住できる配偶者短期居住権と、被相続人の遺言もしくは遺産分割協議で終生の居住が認められる配偶者長期居住権が新設された

 

●被相続人の遺産として、プラスの財産よりマイナスの借金の方が多い場合には、各相続人は、被相続人が死亡したことを知った日から三箇月以内に、家庭裁判所に「相続放棄」の申出をすることによって、相続人でなくなることができる

 

●被相続人の遺言書を偽造したり破棄したり隠したりした者は、「相続欠格者」として相続人ではなくなり、被相続人を虐待した者は、被相続人から家庭裁判所に「廃除」の申立てがあれば、家庭裁判所の判断により、相続人でなくなってしまうことがある

 

 

久恒三平
久恒三平法律事務所 所長
弁護士

 

久恒三平法律事務所 所長
弁護士

中央大学法学部卒業。東京弁護士会所属。久恒三平法律事務所を主宰し、広く民事・家事・商事・刑事事件に対応している。元東京水産大学講師。現在、東京地方裁判所民事調停委員、法務省人権擁護委員、日本弁護士連合会交通事故相談センター嘱託、草加市顧問弁護士、高野山真言宗顧問弁護士の他、企業の顧問弁護士を務める。

著者紹介

連載一番正確で一番わかりやすい「相続」の法律案内

 

一番正確で一番わかりやすい 相続と遺言と相続税の法律案内 新訂版

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久恒 三平

幻冬舎メディアコンサルティング

2018年7月の相続法大改正を、詳しくわかりやすく解説! あなたも必ず経験する相続のキホンの“キ" 配偶者居住権で夫死亡後も妻は自宅に住み続けることができる? 自筆証書遺言の法務局保管制度は使い勝手がよいか? 相続…

 

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