今回は、夫の死後に残された妻の生活を守るために創設された「配偶者短期居住権」「配偶者居住権」について見ていきます。※すべての人の人生で必ず発生する法律問題、それが「相続」です。平成30年には、相続に関する法律として「配偶者居住権」をはじめ、相続人以外の功労者への特別寄与制度の創設など、約40年ぶりの大幅改正が行われました。本連載は、相続の基本から今回の法律の改定内容まで、わかりやすく解説します。

民法で定められた遺産を継承する割合=「法定相続分」

人が死亡した瞬間に、一定の人が、亡くなった人の財産を、当然に承継することを説明しましたが、では、どのような割合で承継するのでしょうか。この割合(相続分)についても、民法に規定されています。

 

まず、関係図の夫甲が死亡した場合、配偶者である妻Aは相続人ですが、甲の相続人が他にいない場合には、妻Aが、甲の遺産をすべて承継(相続)します。

 

 

死亡した甲に、子供(実子・養子を問わず)もいる場合には、相続分は、妻A二分の一、残りの二分の一を子供たちが平等に承継することになります。関係図のように、甲に子供B・C・Dがいる場合には、B・C・Dは各六分の一ずつ、甲の遺産を承継することになります。ただし、Dは、法律上妻ではないXとの間に生まれているため(「非嫡出子」と言います)、甲の認知により法律上の親子関係を生じさせる必要があります。

 

なお、平成二五年に最高裁判所の判決が出るまでは、非嫡出子であるDの相続分はB・Cの半分、すなわち、B・Cの相続分が五分の一ずつであったのに対し、Dの相続分は一〇分の一とされていました。「一夫一婦制」という社会秩序を維持するために、このような扱いをとっていたのですが、「生まれてきた子Dには何も責められる点はない」ということで、このような差別的な取扱いは、憲法の定める法の下の平等に反するということを最高裁判所が判示して、平等な法定相続分が認められることになったのです。

 

甲の子供のうち、Cが甲より先に死亡していた場合には、Cの子E・F(甲の孫)がCの地位を承継して、E・Fは各一二分の一ずつ相続します。子Cとその子F(甲の孫)が二人とも甲より先に死亡していた場合には、Fの子G(甲の曾孫)がFの地位を承継して、一二分の一相続します。

 

甲の妻Aが甲より先に死亡していた場合には、甲の相続人は子供たちだけとなり、B・C・Dが平等に三分の一ずつ相続します。

 

被相続人甲に子供・孫・曾孫・玄孫がいない場合には、妻Aとともに、甲の両親であるH・Iが相続人となりますが、このときの割合は、妻Aが三分の二、そしてH・Iが残り三分の一の半分である六分の一ずつ相続します。H・Iのうちのどちらかがすでに死亡している場合には、存命の方が三分の一を相続します。妻Aが夫甲より先に死亡していた場合には、H・Iが甲の遺産をすべて相続することになります。

 

死亡した甲に、子供・孫・曾孫・玄孫がおらず、両親H・Iもすでに他界している場合には、甲の遺産を妻Aと甲の兄弟姉妹であるJ・Kとで相続します。この場合の割合は、妻Aが四分の三、残りの四分の一を兄弟姉妹が相続します。J・Kが各八分の一ずつ相続することになります。兄弟姉妹のうちのKが甲より先に死亡している場合には、Kの子供であるL・M(甥・姪)がKの地位を承継(代襲相続)することになります。L・Mが各一六分の一ずつ甲の遺産を相続することになります。この代襲相続は、兄弟姉妹の場合には、子供の場合と違って、一代限りしか認められていません。兄弟姉妹の代襲相続の制度が一代限りとなったことによって、戸籍謄本等を取り寄せることにより相続人を確定する作業が、以前と比べたら楽になりました。

 

妻Aが甲より先に死亡している場合には、兄弟姉妹のJ・Kが甲の遺産をすべて相続することになります。

新設された「配偶者短期居住権」「配偶者居住権」

高齢化社会となり、高齢の夫婦が増加していますが、女性の平均寿命が長いことから、夫が死亡した後の高齢の妻の生活保障を考えなくてはなりません。

 

生活において、基本となるのは住居ですが、妻が、夫の財産である建物で無償で生活していた場合、夫が死亡した後、最低六箇月間は、妻はその建物に居住し続けることができることになりました。

 

これが、新設された「配偶者短期居住権」です。

 

この配偶者短期居住権は、遺産分割協議において、配偶者の取得した遺産額としてカウントされませんので、配偶者は、遺産に対し、法定相続分の取得を主張できます。

 

この「配偶者短期居住権」に対し、配偶者が、居住していた被相続人の財産である建物に、原則として、終生無償で居住できるとするのが「配偶者居住権」です。

 

この配偶者居住権(以下、前述の「配偶者短期居住権」と区別する意味で「配偶者長期居住権」と言います)は、被相続人が遺言で「遺贈」することにした場合と遺産分割協議で合意されたときに認められます。家庭裁判所が遺産分割の審判で、被相続人の配偶者に付与することもできます。

 

配偶者長期居住権が新設された理由として、例えば、妻と息子一人が相続人である被相続人の遺産としては三〇〇〇万円相当の自宅建物と一〇〇〇万円の銀行預金しかなかった場合、残された配偶者が自宅建物の所有権を相続すると、それだけで法定相続分を超えており、配偶者の生活資金となる銀行預金が配偶者に配分されなくなるおそれがあるからです。

 

残された配偶者が、被相続人の自宅建物所有権ではなく、配偶者長期居住権を相続し、息子が自宅建物の所有権を相続することにした場合、仮に配偶者長期居住権の評価額が一〇〇〇万円だとすると、配偶者は、銀行預金一〇〇〇万円も相続しうることになります。

 

配偶者長期居住権の導入により、配偶者は自宅での居住を継続しながら、預貯金等の他の財産も取得できるようになったのです。

 

配偶者長期居住権を取得した配偶者は、善良な管理者の注意をもってその建物を使用しなくてはなりませんし、居住建物の固定資産税等の通常の必要費を負担しなくてはなりません。

 

配偶者長期居住権は、その居住権者である配偶者が死亡するか、遺言または遺産分割協議で期間が定まっていればその期間が到来した時に終了します。

 

配偶者は、配偶者長期居住権を他に譲渡することはできません。

 

配偶者長期居住権は登記することができ、登記簿にその旨が記載されれば、第三者がその建物の所有権を取得した場合でも、その第三者に対して、居住権を主張できます。

 

問題は、この「配偶者長期居住権」を遺産の評価額として、いくらとするかです。相続人間の遺産分割協議においては相続人間での合意によればよいわけですが、家庭裁判所が審判で配偶者にこの長期居住権を付与する場合や、遺留分侵害額請求の場合の対象財産の評価としていくらとするかです。終生の配偶者長期居住権が設定された場合には、建物賃料相当額から配偶者の必要費負担分を引いた額に配偶者の平均余命を掛け、そこから中間利息を控除することが考えられます。いずれにしても、裁判所で配偶者長期居住権の評価額が問題となったときは、不動産鑑定士の評価に委ねることになります。

 

この「配偶者居住権」の制度は、二〇二〇年七月までに施行されることになっています。

 

 

久恒三平
久恒三平法律事務所 所長
弁護士

 

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