今回は、親族内事業承継における法定相続分、遺留分の問題解決策を見ていきます。※すべての人の人生で必ず発生する法律問題、それが「相続」です。平成30年には、相続に関する法律として「配偶者居住権」をはじめ、相続人以外の功労者への特別寄与制度の創設など、約40年ぶりの大幅改正が行われました。本連載は、相続の基本から今回の法律の改定内容まで、わかりやすく解説します。

相続が発生したら「株式」は相続人に共有されてしまう

近時、中小企業経営者の高齢化が顕著となり、「事業承継」が重大な社会問題となっています。

 

この「事業承継」の問題は、単なる「相続」の問題に留まらず、中小企業で働く従業員の人たちの「雇用の確保」ということからも大事な問題です。

 

M&Aで会社自体を売却・処分してしまう場合はともかく、経営者の親族が事業を承継する場合には、前述した「法定相続人の法定相続分」の問題や、「遺言における遺留分」の問題が不可避なものとなります。

 

被相続人である現経営者の所有する自社株の価額が、承継者以外の他の相続人たちの相続分を侵害しないものであればさほど問題はありません。

 

しかし、現経営者の所有する自社株の株価が多額なもので、他の相続人たちの遺留分を侵害する場合には、現経営者である被相続人は、やはり「遺言書」を作成して、円満に事業承継が行われるよう尽力すべきです。

 

そもそも、「株式」は、相続が発生した場合、法定相続分で分割されることなく相続人たちの「共有」となるのですから、この点からも、現経営者である被相続人は、「遺言書」を作成すべきです。

不動産や預貯金がなければ「生命保険」への加入を

現経営者に個人所有の不動産はなく、預金等の財産も十分なものでない場合には、現経営者が、承継者を受取人とする生命保険に加入しておいて、相続発生時には、承継者が自社株を相続する代わりに、その生命保険金を代償金として、他の相続人に交付するというやり方をお薦めします。すなわち、生命保険金は、相続税の対象にはなりますが、現経営者である被相続人の「遺産」とはならず、遺留分の対象外となるからです。

 

さらに、前述した「遺留分減殺請求権」が改正法では「遺留分侵害額請求権」となり、他の相続人から遺留分請求されても、株式は「共有」とならなくなったことも、事業承継を円滑にするものであると言えます。

 

なお、この他に、平成二〇年五月に成立した「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」がありますが、この法律が認める制度は使い勝手が悪く、あまりお薦めできません。

 

この「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」によると、非上場会社において、一定の株式や事業用資産を遺留分の対象から除外するためには、

 

①その後継者がすでに会社の株式の過半数を有しており、かつ、現に代表者として経営に従事している場合に

②推定相続人全員が合意して

③その合意を経済産業大臣に確認申請して

④さらに、家庭裁判所の許可を得た場合であること

 

ということが必要となっています。

 

上のような厳格な要件が要求されていることから、この制度は、今日までほとんど利用されていません。

 

被相続人(現経営者)は、端的に、相続人たちに「遺留分の事前放棄」の話をしてみてはいかがでしょうか。

 

<ここまでのポイント>

 

●自分が生涯にわたって一生懸命に形成してきた財産を、自分の死後、「誰に、どのように承継させるか」という意思表示が「遺言」である

 

●被相続人が、自分の思いを実現させるためにも、そして、自分の最愛の肉親たちが、自分の死後、自分の遺産を巡って相争わないためにも、「遺言書」を作成すべきである

 

●「遺言」には、「自筆証書遺言」と、公証人に作成してもらう「公正証書遺言」がある

 

●「自筆証書遺言」について、「財産目録」だけは自筆でなくともよくなった

 

●「遺言」は、その作成日付が明記されていなければならないが、何度でも書き直しができる。同一人の複数の「遺言書」が存在する場合は、一番新しい日付の「遺言書」の内容が優先される

 

●「自筆証書遺言」に比べて、「公正証書遺言」は費用がかかるが、裁判所の「検認」手続が不要であり、「公正証書遺言」を呈示するだけで、銀行預金の払戻しも、不動産登記の名義変更もできる

 

●「自筆証書遺言」の法務局保管制度が実現し、法務局に保管されていた「自筆証書遺言」についても、「検認」手続きが不要となった

 

●被相続人の「遺言」があれば、原則、そのとおりの効力が生ずるが、各相続人には「遺留分」があり、「自分の遺留分は確保したい」と申し出た者については、「遺留分」を取得できることになっている

 

●配偶者や子供(孫)については、被相続人の財産の二分の一が「遺留分」として認められており、自分の遺留分が侵害されているということを知った時から一年以内に、遺留分を侵害している者に対して、「遺留分がほしい」という申し出をしなくてはならない

 

●「遺留分減殺請求権」は改正法では「遺留分侵害額請求権」となり、遺留分対象財産を「共有」するのではなく、相当価額の金銭請求ができるのみとなった

 

●相続人のうち、兄弟姉妹には「遺留分」はなく、「遺言」どおりの効力が生ずる

 

●中小企業の「事業承継」については、現経営者である被相続人は、必ず「遺言」を書いて、自分の持株等をどのように承継させるかを明記すべきであり、承継者以外の相続人の「遺留分」については、生命保険金等を代償金として活用すべきである

 

 

久恒三平
久恒三平法律事務所 所長
弁護士

 

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