これからは誰もが個人で将来のための資産形成に取り組み、資金を管理・運用していく時代です。本連載は、元銀行員でファイナンシャル・プランナーの高橋忠寛氏の最新刊で、2015年10月に刊行された『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋し、お金との上手な付き合い方や、効率のよい運用に役立つヒントを紹介します。

「知らない」ことは最大のリスク

「何に投資すればよいかと絶えず質問を受ける。それに対する答えは、誰の言うことも信じてはいけない。あなた自身がよく知っているものだけに投資するのが、成功への道である」

 

これは投資の神様といわれる米国のウォーレン・バフェット氏の言葉です。要するに、自分自身で理解できないものに投資してはいけないということです。

 

彼が経営する投資会社、バークシャー・ハサウェイは、かつてはIT企業にはほとんど投資していませんでした。その理由は簡単で、バフェット氏自身がITに対する深い理解がないからだそうです。実は、マイクロソフトの会長、ビル・ゲイツ氏と非常に仲がよいのですが、ビル・ゲイツ氏個人と、彼がやっている事業は違うということなのかもしれませんね。

 

さて、実際に大きな資産を築いている人は、バフェット氏と同様、自分でよく理解できないものには資金を投じません。理由は、知らないことが最大のリスクにつながるからです。

 

これは、個別企業の株式への投資に限った話ではなく、投資信託への投資にも当てはまります。投資信託の場合には、投資対象の詳細ではなく、投資信託のしくみを完全に理解しておく必要があります。投資信託のしくみがわからないままに投資をしていると、基準価額が下落したときにも、市場全体で下落しているのか、その投資信託固有の要因で下落しているのか、冷静に判断して対応することができません。

複雑な商品は一般人には不向き、基本は「近づかない」

少し前に「トリプルデッカー型」と呼ばれるタイプの投資信託が非常に人気を集めました。トリプルデッカーは「3階建て」という意味で、投資信託の分配金を押し上げるために、3つの仕掛けが盛り込まれているものです。

 

まず、投資対象は米国のREITや株式ですから、REITや株式からもたらされる高利回りの配当収入が、1つめの収益源泉です。2つめの収益源泉は、通貨選択型というしくみを用いることによってもたらされます。米国のREIT市場や株式市場に投資する通貨は米ドルです。

 

これに対して通貨選択型ファンドは、米国よりも金利の高い国の通貨で、こうした米ドル建て資産に投資します。

 

たとえばブラジルレアルなどが代表的ですが、もちろんブラジルレアルで直接、米国のREITや株式には投資できません。いったん、ブラジルレアルを米ドルに替えて投資します。そして、ブラジルレアル売り・米ドル買いの為替取引を行なうのと同時に、一定期間後にブラジルレアルを買い戻す先物取引を行ないます。

 

この取引によって、ブラジルレアルと米ドルのあいだの為替変動リスクをヘッジしつつ、低金利通貨を売って高金利通貨を買うということになり、両通貨の金利差がヘッジプレミアムという形で入ってきます。このヘッジプレミアムに選択した通貨が上昇した場合は為替差益も加わります。これが2つめの収益源泉です。

 

そして、3つめの収益源泉は保有している株式のコールオプションを売ることによって得られるオプション料です。これをカバード・コール戦略などというのですが、このオプション料を上乗せすることによって、さらに分配金を手厚くするというのが、トリプルデッカー型ファンドの特徴です(現在はさらにタチの悪い「4階建ての投資信託」も残高を増やしています)。

 

さて、ここまでの説明を聞いて、商品内容をすぐに理解できたでしょうか?

 

「ヘッジプレミアム」「カバード・コール戦略」、あるいは「オプション料」というあたりはかなり専門的なものですから、わからない人も多いと思います。そういう方は、このファンドに手を出してはいけません。商品のしくみがわからなければ、どういうリスクがあるのか、最悪の場合どのくらい下落する可能性があるのかもわかるわけがないし、リスクの所在がわからないままに投資すると、マーケットが混乱したときに冷静に対応することができないからです。

 

そもそも、こういった複雑なしくみをもった商品は手数料がとんでもなく高く設定されているため、多くの人にとっては検討に値しません。そのため、商品内容を理解する必要もないと思います。「複雑でよくわからないものには近づかない」という態度でいるのが正解です。

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

高橋 忠寛

日本実業出版社

世の中に発信されている金融商品や資産運用に関する情報の大半は、金融機関など「売り手側」から出されているものです。また、最も身近な金融機関である銀行の営業担当者は、お金や金融商品に詳しいプロであるという一面と金融…

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