これからは誰もが個人で将来のための資産形成に取り組み、資金を管理・運用していく時代です。本連載は、元銀行員でファイナンシャル・プランナーの高橋忠寛氏の最新刊で、2015年10月に刊行された『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋し、お金との上手な付き合い方や、効率のよい運用に役立つヒントを紹介します。

平均騰落率は同じでもトータルリターンに差が生じる!?

値動きの変動幅をボラティリティといいます。資産運用をする場合、ボラティリティは高いほうがよいのか、低いほうがよいのか、どちらでしょうか。

 

短期的な売買で儲けようというギャンブルに近い投資をする場合には、変動が大きいほうが儲かるかもしれません。しかし、長期でまとまった資金を運用していく場合は、できるだけ変動を抑えるような運用法のほうが、よい結果をもたらします。

 

具体的に比較してみましょう。

 

【ファンドA】 1年目=+50%、2年目=▲40%、3年目=+40%、4年目=▲30%

【ファンドB】 1年目=+30%、2年目=▲20%、3年目=+30%、4年目=▲20%

【ファンドC】 1年目=+10%、2年目=▲10%、3年目=+25%、4年目=▲5%

 

ファンドA~Cまで3本の各年の騰落率を並べましたが、実際に計算するとわかるように、いずれも年間騰落率の平均は5%です。そして、それぞれの騰落率をみればわかるように、ファンドAは非常に値動きが激しい傾向がありますし、それよりもBは比較的おとなしい運用が行なわれています。また、ファンドCはファンドBよりもさらに緩やかな運用成績を維持しています。

 

さて、たしかにいずれのファンドも年間騰落率の平均は5%なのですが、4年目が終わった時点のトータルリターンに大きな差が生じます。実際に計算してみましょう。

 

【ファンドA】 1.5×0.6×1.4×0.7=0.882

【ファンドB】 1.3×0.8×1.3×0.8=1.0816

【ファンドC】 1.1×0.9×1.25×0.95=1.176

 

仮に投資元本が1000万円だったとすると、ファンドAとファンドB、ファンドCの4年目の運用が終わった時点で、それぞれ最終的にいくらになるのかを計算してみましょう。

 

●ファンドAは、1000万円×0.882=882万円

●ファンドBは、1000万円×1.0816=1081万6000円

●ファンドCは、1000万円×1.176=1176万円

 

それぞれ年間騰落率の平均は同じ5%なのに、これだけの差が生じてしまうのです。ファンドAとファンドCの差は、実に294万円にもなります。

資産クラスを分散して価格変動を抑える

なぜ、これだけの差が生じてしまうのでしょうか。考えられる原因はただひとつ。ファンドAはボラティリティが高い(価格変動が大きい)からです。

 

1年目で50%上昇すると、1000万円は1500万円になります。しかし、2年目は40%のマイナスですから、1500万円が900万円まで目減りしてしまいます。それを3年目に40%プラスになったとしても、1260万円までしか戻りません。そして、そこから30%のマイナスになるため、882万円まで目減りしてしまうのです。

 

まさに「平均のワナ」といえます。平均値で見れば年5%のリターンが出ているのに、こうして4年間の運用を経て実際に投資資金がどうなっているのかというと、1000万円を超えてプラスになるどころか、882万円まで目減りしているのです。

 

変動の大きさを抑えるためにはどうすればよいかといえば、十分に分散されたポートフォリオ(資産の組み合わせ)を構築することに尽きます。国内株式と海外株式、国内債券と海外債券というように、4つの資産クラスに分散するだけでも、価格変動はかなり抑えられるはずです。

 

ただし、1つだけ注意点があります。変動が小さいほうがお金を殖やせるのは、一括投資した資金を運用している場合です。少しずつ積み立て投資をしながら資産形成をしていく場合には当てはまりません。その場合には、変動がある程度あったほうが結果的に大きく資産を殖やせることもあります。

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

高橋 忠寛

日本実業出版社

世の中に発信されている金融商品や資産運用に関する情報の大半は、金融機関など「売り手側」から出されているものです。また、最も身近な金融機関である銀行の営業担当者は、お金や金融商品に詳しいプロであるという一面と金融…

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