これからは誰もが個人で将来のための資産形成に取り組み、資金を管理・運用していく時代です。本連載は、元銀行員でファイナンシャル・プランナーの高橋忠寛氏の最新刊で、2015年10月に刊行された『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋し、お金との上手な付き合い方や、効率のよい運用に役立つヒントを紹介します。

銀行員に言われるまま「高額な投資」をしない

資産運用に取り組む人にとって、リターンはできるだけ大きいほうがよいでしょう。一方でリスクはできるだけ小さくしておきたいと考えると思います。

 

確実にリターンを改善する方法は、これまでもお伝えしたようにコストの削減と税金の優遇制度を徹底的に活用することぐらいしかありません。一方、リスクを確実に減らす方法は存在します。

 

まず、当たり前の話ですが、投資金額を減らしてしまうことです。これは、殖やしたい目標額から資産運用を考えるのではなく、許容できる最大損失額から投資できる金額を逆算する方法にも似ていますが、いずれにしても投資金額を減らせば、同じ1割の下落でも損失の絶対額を抑えることができます。

 

銀行の営業担当者と相談しながら資産運用をしていると、銀行員に預金残高も知られてしまっているため、「少額で」とは言いにくい状況になります。たとえば、1000万円のすぐには使わない預金があるときに、「最初は200万円くらいで投資してみようかな」と思ったとしても、銀行の担当者から親切な説明を受け、1000万円をどう運用していくかを提案されると、とくに男性のお客さまはプライドもあるためか、「200万円だけお願いします」とは言いにくくなるようです。

 

金融機関の営業担当者からすると、取引金額が少なくなることは最も回避したいところなので、そういう気持ちになってくれるのは好都合なのですが、そこで強い気持ちをもって、「200万円だけお願いします」と言うことが大切です。あるいは、そもそも営業担当者と顔を合わせないで済むネット経由の取引を利用すれば、こういった事態を避けることができます。

時間分散・資産分散・長期投資でリスクコントロール

次に、ここまでにも触れてきた、①時間分散、②資産分散、③長期投資という3つの方法も、リスクをコントロールするのに有効な手段です。

 

これらの方法についても、ここでまとめて再確認しておきましょう。

 

1つめは時間分散です。投資を始めるタイミングも止めるタイミングも複数回に分けて実行するということです。結果的に利益を最大化できない可能性もありますが、大きな失敗を避けるためには最もマシな方法といえます。

 

金融機関は「まとまったお金があるなら一括投資して欲しい」と考えますので、時間分散の重要性は教えてくれませんが、投資に取り組むのであれば、非常に大事な考え方です。プロの機関投資家は、一定期間ごとに結果が求められるので、投資せずに資金を寝かせておくわけにはいきませんが、個人投資家にはそのような制約はありません。無理に投資せずに待ちの姿勢でいられることが、個人投資家の大きな武器にもなります。

 

2つめは資産分散です。これは投資する対象資産を分散するということです。国内だけでなく海外資産も組み合わせ、債券と株式を中心に組み合わせ(ポートフォリオ)を考えることです。安定的な資産運用を望むのであれば、この資産配分(アセットアロケーション)がいちばん大切です。リスクを減らすことにもつながります。

 

3つめは長期投資です。これは、たんに長く続ければよいということではありません。長期間、投資を続けたとしても、統計学上のリスク(変動の大きさ)が小さくなるわけではないからです。ましてや、ヘタな商品や手法で長期間、投資を続けると、マイナスがどんどん大きくなってしまうこともあります。大事なことは、②の資産分散とあわせて実践することです。期待リターンがプラスになるような、十分に分散された組み合わせ(ポートフォリオ)でじっくり時間をかけて投資をすることです。

 

こうしたポートフォリオに長期投資を行なうと、元本割れする可能性を確実に減らすことができます。

 

この長期投資を実践するために大事なことは、「早く始める」ということです。いくら投資について勉強しても、実践しないとうまくはなりません。水泳の教科書を一生懸命読んでも、泳げるようにならないのと同じです。

 

資産運用の必要性について理解し、納得した人は、たとえ少額であっても、できるだけ早く始めて、経験を積むことが重要です。まずは、失敗しても生活に影響が出ないような金額で始めてみればよいのです。泳げない人が、何かあっても溺れないように足の着くプールに入って練習するのと同じです。

 

むしろ、お金が貯まってから資産運用を始めると、動かす金額も大きくなり、失敗したときに取り返しがつきません。早く始めて経験を積むことが、長い目で見て、人生のリスクを減らすことにもつながります。

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

高橋 忠寛

日本実業出版社

世の中に発信されている金融商品や資産運用に関する情報の大半は、金融機関など「売り手側」から出されているものです。また、最も身近な金融機関である銀行の営業担当者は、お金や金融商品に詳しいプロであるという一面と金融…

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