独居高齢者が抱える1つ目の問題は、経済的な問題です。夫婦二人、あるいは子どもなどの家族と同居しているケースに比べ、一人暮らしの方が、圧倒的に経済的に困窮するケースが目立ちます。
65歳以上の高齢者夫婦で、夫が元サラリーマン、妻が専業主婦だった場合、「夫の厚生年金+妻の国民年金」を受け取れるケースが多数派です。厚生労働省の「平成26年度社会保険事業の概況」によると、厚生年金の平均受給額は約14.8万円、国民年金は5.4万円なので、夫婦合わせた年金額は約20.2万円ということになります。
もし妻が亡くなったら、夫が受け取る年金額は自分の年金分だけ、つまり14.8万円になります。一方、夫が亡くなった場合、妻は国民年金と遺族年金として夫が受け取っていた年金の3/4を受け取れるので、年金額は11.1万円となります。
それまで二人で暮らしていた夫婦のうちどちらかが亡くなり一人になったとしてもその生活費は半分にはなりません。二人で暮らしていたときとさほど変わらないのが実態です。たとえば、借家住まいの場合、同じ場所に住み続けるのであれば、家賃は以前と変わらない額を支払わなければなりませんし、水道光熱費などは基本料金があるため少ししか安くなりません。
医療費に関していえば負担は逆に重くなるともいえます。既に説明したように、日本には医療費の自己負担額に上限があります。ところが、この金額は世帯ごとに合算されるものです。たとえば、70歳未満の夫婦がいるとします。2人が受け取っている年金の合計額が370万円未満の場合、医療費の自己負担分は最高で月5万7600円となります(4か月目以降は4万4400円に下がる)。
ところが、夫婦のどちらかが亡くなっても、自己負担分の上限額は5万7600円のままです。もし、残された高齢者が高額な医療費が必要な病気にかかっていた場合、収入は減っているのにもかかわらず、医療費の負担は以前と変わらないことになります。こうして一人暮らしになったことをきっかけとして、経済的困窮状態に陥ってしまう人も少なくありません。
「孤独死」を身近に感じる高齢者は増えている
経済的な面だけでなく、一人暮らしの高齢者には、病気や事故、犯罪などのさまざまなリスクも高まります。
配偶者や子どもと同居していれば、日常的に人とのコミュニケーションが図れるでしょう。ところが、一人暮らしになると、とたんに人間関係が乏しくなりがちです。もちろん、近隣の人々と親しくしていたり、趣味の仲間と定期的に会ったりして、豊かな人間関係を維持している高齢者もいます。しかし、独居高齢者のなかには、1日中部屋にこもって誰とも話さないような人が珍しくないのです。
人間関係が希薄になると、病気のときに看病してもらう人がいないなど、さまざまなリスクが生じます。
一人暮らしのリスクのなかで、特に昨今問題になっているのが、犯罪に巻き込まれてしまうケースです。高齢者が、暮らしのなかでトラブルにぶつかったとき、誰にも頼れない点が犯罪者につけこまれる弱点となります。高齢者は友人がいたとしても、身内の不始末を恥ずかしく思うため、相談できずに、「振り込め詐欺」(いわゆる「オレオレ詐欺」や「架空請求詐欺」などの総称)の被害にあってしまったり、訪問販売などで不要な商品を買わされたりするケースも少なくありません。
こうした被害を受けそうになっても、周囲に家族がいれば、未然に防ぐことができるでしょう。反対に、身内がそばにいない場合、誰にも相談できないまま被害が拡大してしまう危険性があるのです。
【図表1】 高齢者の会話の頻度(電話・E メールを含む)
【図表2】 孤独死を身近な問題と感じる人の割合
さらに、健康面のリスクでは、急な発作や体調不良で苦しんでいても、誰にも助けてもらえず命を落としてしまう「孤独死」が挙げられます。「平成27年版高齢社会白書」によれば、高齢者の17.3%は孤独死を身近に感じています。そして、他人と会話をする機会が少ない単身世帯では、なんと45.4%も孤独死の危険性を感じているのです。
「今後の高齢化の進展2025年の超高齢社会像」(2006年)によれば、独居となる高齢者が2015年では566万人になると予測されており、高齢者の認知症有病率が15%と推計され、計算すると認知症の一人暮らし高齢者は、約85万人にもなります。認知症になれば、記憶障害による水の出しっぱなし、お風呂を沸かしっぱなし、火を使う料理をしているのを忘れるなど、家庭内で事故を起こしてしまう場合もあります。
そのほかにも腐っている物でも臭いがわからず食べてしまったり、暑かったり寒かったりしてもエアコンなどを使用せず、夏場は脱水症状になる高齢者も多いのです。
森 亮太
医療法人 八事の森 理事長