今回は、投資物件の入居率を上げる戦略的なリフォームについて見ていきます。 ※近年の不動産投資ブームにより、チャレンジする人は右肩上がりに増加しています。しかし、どんな投資であっても「リスク」があることを忘れてはなりません。本連載では、物件選びの注意点から「ファイナンシャルプラン」の考え方、リフォーム、実際の投資事例まで、リスクを抑えた不動産投資の基本について、一連の流れを分かりやすく紹介します。

入居率アップに必須の設備・対策とは?

入居率のアップには、どのような設備や対策が必要となるのでしょうか。

 

【設備】

 

空室を早期に埋めるために、エアコン、温水洗浄便座、独立洗面台の設備の設置を強くお薦めします。これらがあるのとないのとでは、入居率に歴然たる差が出ます。とはいえエアコンなどは高額であるため、ファミリータイプでも1台のみとし、それ以上は入居者負担としてもいいでしょう。また、1Kの女性入居の場合はセキュリティ重視の物件が好まれますので、カラーTVドアホンを取り付けるのも良い方法です。

 

【外部修繕】

 

物件を取得した際、傷んでいた場合は当然修繕を施さなければなりませんが、保有期間により塗装か洗浄かで分けるというのも戦略のひとつです。

 

外部修繕については、

 

●防水効果がちゃんと残っているのか

●賃貸に影響がないよう美観を保てているのかの

 

2点がポイントです。

 

当社は中野駅近くにマンションを保有していますが、防水効果が残っているため、取得後の塗装はやめ、薬剤を使用した洗浄により汚れを落としました。賃貸は自分が住むものではありません。家賃に見合った設備により収益性を高めるため、特にコストが高い塗装や防水などは建物の劣化が酷い場合や、売却時のバリューアップに活用するのが望ましいでしょう。

 

また塗装に関しては材料によって、上下2倍前後のコスト変動があります。そのため、賃貸においては材料コストを抑えて修繕しましょう。

 

ただ、豪雪地帯や水害の多い九州地方では、防水効果を保つため、事故が起こらぬよう大規模修繕を計画的に行う必要があります。また、屋上防水施工方法は関東地方での施工とは違い、10年ごとに下地、表面と防水施工、雪庇対策などが必要です。コストは倍以上と考えた方が良いでしょう。

 

【害虫対策】

 

シロアリなどの害虫により、建物の基礎が弱くなっている物件もあります。シロアリの調査は、床下点検口がある場合はそこで行います。点検口がなければ、和室から洋室への変更時など、床下を確認できるタイミングで一緒に確認します。

 

 

前回の記事で紹介したリフォーム内容から、ここまで解説してきた修繕コストを合計したものが、土地値物件を再生して賃貸経営をはじめるまでにかかるコストです。

 

つまり土地値物件の再生原価は、「物件価格+取得経費+空室再生原価」となります。

コストと収益性を比較し、見合わない施工は避ける

近年の新築では、リビングを広く取るような間取りが多いですが、一昔前の建物には水回りがある部屋に段差があることが多いです。そのため、2LDKへ変更するにあたり、壁を取るだけではなく、低い方の床を大工工事でかさ上げしてフラットにする必要があります。

 

6帖2間を12帖1間へ変更する場合は、床と壁の大工工事、内装工事で30万円~50万円前後のコストがかかります。

 

リフォームの利回りアップは、「修繕費-(家賃アップ×120カ月)」で計算できます。この計算式により、工事費から考えて見合わない施工は避け、投資する価値のないものは控えましょう。

 

レアケースですが、世田谷区で1K、4世帯、築40年のアパートの改装工事をする際、家賃帯を調査したことがあります。家賃がバランス釜、プロパンガスの場合で4万5000円だったのですが、賃貸仲介会社から意見を聞いたところ、都市ガスにした場合プラス3000円、給湯式に変更した場合プラス5000円ということでしたので、オーナーに提案しました。

 

都市ガス変更 30万円×4世帯→120万円

給湯式変更 20万円×4世帯→80万円

都市ガス変更+給湯式変更=200万円

200万円-(3000円+5000円×120カ月)=104万円

 

以上のように、この修繕でオーナーの収益性が向上することが明らかになり、施工が決定しました。

 

他にも、追い焚き式への変更、3点ユニットバスをバス・トイレ別にする、手洗い器を独立洗面台にする、インターネットを無料にする、などで家賃を上げることができます。ただしエリアによって上昇率は異なりますので、収支が合うかを賃貸仲介会社に確認し、家賃アップ分とリフォームコストを見比べて収益性が高いものを選択するようにしましょう。

退去に伴う修繕費用の積み立ては必須

【室内修繕積立金】

 

分譲マンションに居住している方は皆さんご存じかと思いますが、長期にわたるマンションの維持管理のため、管理組合は管理費と合わせて修繕積立金を毎月請求します。この修繕積立金は主に10年ごとに1度実施する外部改修工事やエントランス工事などに該当し、年1回以上開催される集会で収支報告されます。

 

修繕積立金は、収益不動産においても同様であり、築古木造アパートを購入する際のリフォーム代金は取得費用とみておく必要がありますが、その後退去が重なったとしても修繕費用を支払えるよう、毎月回収する家賃から退去に伴う原状回復費用の積立をしておくのが良いでしょう。これは、別口座にしたり管理会社に前払いしたりするべきだといっているわけではなく、退去は「ある一定期間に発生するもの」として収支計算し、現金を蓄えていた方が良いという意味です。

 

そのため私は室内部分の修繕費として、

 

1K(延べ床面積25㎡まで)24カ月ごと退去、単価5000円、24カ月で12万円

2K以上(延べ床面積25㎡以上)48カ月ごと退去、単価1万円、24カ月で48万円

 

を積み立てるようにしています。

 

 

1K、2K以上の原状回復費用としては室内のクリーニング費用、クロスの張替、床張替、巾木で室内の汚れによって施工内容も異なりますが、費用の準備をする上での指標となります。

 

【外部改修修繕積立金】

 

建物の形状によって外部改修工事の費用は異なりますが、長期保有の場合には10年~15年に1度は塗装、防水工事を行わなければなりません。そのためのコストとして、1Kか2K以上かの違いはありますが、1部屋1カ月あたり単価1000円、120カ月で12万円×世帯数の積立金を用意しておきましょう。

 

この修繕積立金は、中古不動産を維持管理する上で、賃貸経営上発生する経費です。1世帯あたりの修繕積立ができる投資とは、以下の計算式で割り出せます。

 

手取家賃-管理会社経費-修繕積立金〈5000円もしくは1万円〉+1000円-(毎月のローン返済額÷世帯数)

 

また、10年以上の保有をする場合は、外部改修工事(塗装、防水)の費用が加算され、室内のキッチン、ユニットバス、エアコンなどの設備のリニューアルも経費にいれておきましょう。中古を長期間保有する前提で考えると、外部改修工事と設備リニューアルは10年ごとに1度実施する前提で考え、費用を蓄えておく必要があります。

 

 

菅谷 太一

ハウスリンクマネジメント株式会社 代表取締役 宅地建物取引士/液化石油ガス設備士/丙種ガス主任技術者

 

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