不動産投資は「他人任せにしない」姿勢が重要
ここまでの連載を読んでいただいたらわかるかと思いますが、不動産投資は、豊富な知識や情報によって適切な選択をしていかなければなりませんので、決して、何もしなくとも利益があがる不労所得ではありません。
不動産投資を確実に成功させるには、家賃収入を最大化させるため、仲介会社、賃貸会社、管理会社、リフォーム会社、税理士などさまざまな業種の人に依頼し、コストをコントロールし、その利ざやで収益を上げなければなりません。そのため、「他人任せ」ではなく多くの情報を取り入れ、自分の頭で考え、組み立てをすることが重要です。
「理屈としては理解できても、自分で出口戦略を組み立てるのは無理だ、できたとしても時間がなく不安だ」という人のために、当社では物件の紹介よりもむしろ収益不動産の運用と出口を理解してもらうことを大切にコンサルティングしています。投資家の方が購入した不動産で利益が上がることは非常にうれしいもので、それがこの仕事の醍醐味だと感じています。
そこで実際に、筆者の会社が物件を紹介した投資家の方の実例を紹介していきます。
更地にして売り出す場合を想定し、売却益を算出
土地値物件 Case1 土地価が購入金額を上回る駅遠物件
はじめにご紹介する例は、東京都の中央線沿線にある物件です。武蔵小金井駅から徒歩25分と駅からの距離は決して近いとはいえませんが、整形された角地であり、また接道条件も良かったため、土地の資産価値部分が大きくなる物件でした。
この物件の詳細は次の通りです。物件の諸条件を鑑みて、15年賃貸ののちに土地のみを建売3区で売却するという出口戦略を立てました。
【物件条件】
●軽量鉄骨造…………………………土地値以下物件
●中央線武蔵小金井駅………………徒歩25分
●築年数………………………………築38年
●2DK…………………………………8世帯
●土地…………………………………95.74坪
●駐車場………………………………4台付き
●売却金額……………………………5800万円
●相続路線価土地価格………………7660万円
●購入利回り…………………………9.76%
【資金計画】
●自己資金……………………………870万円
●金融機関……………………………S銀行に借入
●返済期間……………………………20年
●vATCFo(税引き後キャッシュフロー)…年間116万円
●15年間でのキャッシュフロー……1740万円
●退去修繕見込み費…………………1152万円(4年に1度退去計算)
●解体費………………………………230万円
●売却経費……………………………230万円
●ローン残金…………………………1450万円
このような物件では、次に購入する人が融資を受けにくくなるため、最後には更地にして売りに出した場合を想定して、売却益を算出しておきます。
また、売却に向けて建物を解体して更地にする際には、それまで住んでいた入居者を退去させる必要があります。それを見越して、建物を解体する2~3年前には入居希望者との契約はあらかじめ定期借家契約としておき、解体の1年ほど前に契約が終了すること、再契約はしないことを通知しておかなければなりません。
土地値物件 Case2 高実勢価格で流動性の高い築古物件
次の事例は、東京都新宿区にある物件でのことです。
西武新宿線の中井駅からも近く、立地場所は好条件ではありましたが、その物件には浴室がありませんでした。
建物は築42年という古い木造物件ではあるものの、都心に近いことから、塗装、シロアリ駆除を実施してあと15年はもたせ、更地で売却する出口戦略を計画。浴室がないという点については、生活保護者の入居を見込んで計画を立てました。
この物件の詳細は次の通り。土地値以下ではなかったものの、立地が新宿区ということから、土地の実勢価格が高く、流動性がありました。
【物件条件】
●西武新宿線中井駅…………………徒歩6分
●築年数………………………………築42年
●1K……………………………………8世帯
●土地…………………………………39.9坪
●売却金額……………………………6000万円
●相続路線価土地価格………………5187万円
●購入利回り…………………………8.6%
【資金計画】
●自己資金……………………………400万円
●金融機関……………………………S信用金庫に借入
●金利…………………………………2.0%
●返済期間……………………………20年
●ATCFo………………………………年間約156万円
●20年間でのキャッシュフロー……3120万円
●退去修繕見込み費…………………960万円(4年に1度退去計算)
●解体費………………………………230万円
最後には建物の解体を前提としているという点は、一つめの事例と同じです。ただし、築年数を考えず、たとえ浴室がなくても賃貸として成立するのであれば、新宿区という都心の物件であっても購入できる可能性が出てきます。新宿区に40坪の土地をローンなしで保有できるので、有効活用できる方法がさまざまにあるはずです。
「売却せずに保有し続ける」という出口戦略もあり
土地値物件 Case3 賃貸価格を抑えても高利回りの物件
三つめにご紹介する例は、永久保有を見据えた物件です。その物件はJR横浜線の相模原駅からほど近く、家賃を最低価格帯に抑えても利回りが約11%にもなるという物件でした。
【物件条件】
●JR横浜線相模原駅…………………徒歩10分
●●築年数……………………………築21年
●1K……………………………………8世帯
●土地…………………………………26.89坪
●売却金額……………………………2600万円
●相続路線価土地価格………………1293万円
●購入利回り…………………………10.93%
【資金計画】
●金融機関……………………………S銀行に借入
●金利…………………………………3.9%
●返済期間……………………………30年
●ATCFo………………………………年間100万円
●入居者退去時の原状回復費と入居経費…2年に1度(12万円÷24カ月=5000円/戸)
●大規模修繕費………………………15年に1度(100万円÷180カ月=5555円、4万5500円×12カ月=54万6000円)
この物件も土地値以下ではありませんでしたが、賃貸価格をエリア内では最低の3万円に設定してありました。物件購入後の家賃下落が少ないため、売却せずに保有し続けるという出口戦略で運用を行いました。
融資の金利こそ3.9%となりましたが、30年という期間での利益が取れたため、年間ローン、修繕積立を考えたとしても年間約80万円のキャッシュフローが確保できます。数年のち借換もしくは金利交渉によりキャッシュフローはさらに拡大していきます。
土地値物件 Case4 大きな売却益を狙うRC物件
最後にご紹介するのは、ファイナンスが付きやすいRC造の物件での事例になります。
次の購入者が金融機関からのローンを受けやすくなる築年数に合わせて売却時期を設定し、物件を5年保有して大きな売却益を得る出口戦略を組み立てての運用でした。
【物件条件】
●小田急線本厚木駅…………………バス13分
●築年数………………………………築30年
●2DK…………………………………16世帯
●売却金額……………………………1億500万円
●土地…………………………………174.04坪
●相続路線価土地価格………………4830万円
●購入利回り…………………………10.00%
【資金計画】
●金融機関……………………………S銀行に借入
●金利…………………………………3.3%
●返済期間……………………………30年
●ATCFo………………………………年間483万円
●入居者退去時の原状回復費と入居経費…4年に1度(1戸あたり1万円×16世帯×12カ月=192万円)
ただし、金利交渉により、のちのち借り換えも可です。
売却するとしてこの物件の5年後の売却益を考えてみると、購入額1億500万円(土地5250万円、建物5250万円)購入時仲介手数料は346万円※減価償却対象
築30年のため、(47-30)+(30×20%)=耐用年数23年
5年での売却であるため、減価償却費は、
5250万円÷23年×5年=1141万3040円(建物減価償却費)
(346万円÷2)÷23年×5年=37万6085円(仲介手数料減価償却費)
で合計1178万9125円となります。
売却額が購入額と同じ1億500万円で、売却時の経費として購入時と同じく仲介手数料がかかった場合、以下の計算になります。
【購入額】
1億500万円-減価償却費1178万9125円=取得費9321万875円
【売却額(売却益)】
1億500万円-譲渡経費346万円-取得費9321万875円=832万9125円
5年保有中のキャッシュフローの他、売却益が800万円ほど出る計算です。金利交渉、借り換えなどは前述の通りであり、キャッシュフローは上がりますが、なにより5年後も同額での売却を見込めることがこの物件のメリットです。
RC造の物件でも、出口戦略次第で確かな収益を獲得することができるのです。
都市計画によって出口が行政に保障されるケースも
土地値物件 Case5 土地建物の収用が決定している物件
国、都、県の都市計画における道路、河川などの拡幅により、保有している土地建物の収用が決定しているものです。
非常に稀なケースではあるものの、当社では今まで2度経験しました。
保有している土地もしくは土地建物の両方が、道路の拡幅や河川の拡幅により、都市計画上重なってしまっている場合は、行政が任意収用、強制収用どちらかを行います。収用により所有者が損をすることのないよう、行政は金額を算定します。入居者の退去、引っ越し費用も場合によっては保証してくれるため、ある意味「有効な出口戦略」ともいえます。
当社の扱ったケースのひとつは、自社で購入した鉄骨造2棟についてでした。建物の後ろに河川が流れており、その河川が過去氾濫したことがあったようで、氾濫防止のために河川拡幅が決定していました。ただし、その拡幅により1000世帯弱の方の土地建物の収用をしなければなりません。莫大な資金がかかるため、年間数億円の予算を調達し、予算が終了すると翌年度に引き延ばすというふうに、徐々に収用を進めているものでした。
拡幅河川に2棟中1棟が該当しており、入居者が8人いたため、行政に「収用の場合どこまで保証してくれるのか」と尋ねてみました。すると「収用の了承をもらってから市の基準で金額を決定するため、正確には伝えられないが、入居者の退去費用、解体費用、収容分の土地(路線価ベース)を保証する」という回答でした。金額は不明ながらも、出口の一部を行政保証されるというケースです。
このように、良い物件を適切な融資で組み立てることにより、安定した運用益を得られるのです。