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愛人に支払う費用を「外注費」として計上したい女

<あらすじ> 雪江は、友人・望の会社から派遣されたハウスキーパーの巧と愛人関係になった。ある日、掃除中の巧が雪江のものではない靴を発見する。夫への疑念が膨らむ雪江。一方で、愛人・巧との関係は、嫉妬のような感情からマンションの一室を与えるところまで発展していった…。 一部の富裕層しか知らない「愛人」を持つことの金銭的な損得勘定に真剣に迫るリアル小説、妻編〜第8回。

巧に他の女が存在することなど、考えもしなかった。

 

「恋人契約」したとはいえ、実態は愛人だ。

 

巧はまだ若い。リアルに彼女がいてもおかしくはない。

 

スマホの通知メッセージを見てしまったことを問い正すかどうか、一瞬考えた。だがお金で繋がっている関係に、束縛する権利はないような気がした。

 

シャワーから出てきた巧に悟られぬよう、雪江は「夫が帰ってくる」と言い訳して、マンションを後にした。

 

地下の駐車場から車を出し、帰路に向かう。運転していたら、少し気持ちがクールダウンしてきた。

 

独占欲と恋愛感情はイコールではない。だが好きでもない相手ならば、独占したいなどと思うこともない。

 

思えば夫に他の女がいると察した時も、雪江は胃の辺りがキューっとなった。さっき巧に彼女がいるかもしれないと思ったときも、同じように締め付けられた。

 

まだ私は、夫の事を愛してる?

 

独占したいほど、巧のことを愛してる?

 

どちらも当てはまらないな、と雪江は思った。

 

独身の頃、恋人に感じていたあのドキドキする気持ち。デートの前夜、普段はつけないネイルをして、明日着る洋服に悩み、遠足前の子供のように眠れなくなったこと。恋人と手を繋ぎ街を歩くだけで、世界一幸せな気分になったこと。あれは確かに恋だった。

 

今はどうだろう。夫とは、出会った時からときめきは感じなかった。真面目で人が好さそうな印象で、漠然と「この人と結婚したら、穏やかな生活が送れるかも」と思った。

 

予感は的中し、結婚生活は平和そのものだったと思う。巧と出会うまでは。

 

胸の中でくすぶる独占欲は、普段あまり感情の起伏が激しくない雪江を激しく揺さぶった。

 

苦しいほどではないけれど、気持ちのいいものでもない。夫に対しては諦めの気持ちが芽生えたが、巧に対しては悲しみしか生まれない。

 

本当の恋人じゃないのに、なぜこんな気持ちになるんだろう。

 

好きだから悲しいのか。プライドを傷つけられたから悔しいのか。

 

幸せだったはずの日々が、翳(かげ)りを見せる。

 

自分にとっての幸せが、雪江はわからなくなってしまった。

 

***

 

「ハタチの小娘じゃないんだから」

望は呆れたように言った。

 

「自分でもおかしいと思う。巧くんは、愛人であって恋人じゃないのにね」

 

「よく考えてごらんよ。雪江だって旦那がいるんだし、向こうに彼女がいるなら、それこそお互い様じゃない?」

 

「そうだよね……」

 

巧のことを話せる相手は望しかいない。最近は週2で望とランチをしている。クリニックの伊藤先輩からも「随分と仲がいいね」とからかわれてしまった。

 

「それよりさ、ちょっと困ったことになっちゃった」

 

「どうしたの?」

 

「この間、一緒にホストクラブへ行ったでしょ? あのとき隣についた健二が、ホストやめてウチの会社でハウスキーパーすることになったのね」

 

「へー。お気に入りの子と一緒に仕事できるなんて、いいじゃない」

 

「それがさ……」

 

望は、歯切れの悪い口調になった。

 

これまで望は、社長として従業員には絶対手を出さないと決めていた。ビジネスなのだから当然のことだ。しかし健二の誘惑に負け、深い仲になってしまった。

 

「派遣先が決まって送り出したのはいいけど、クライアントにも手を出してるんじゃないかと思うと、気が気じゃなくて……」

 

「それは社長としての心配? それとも嫉妬?」

 

「わかんない。後者だとしたら、雪江と同じよね。独占欲も嫉妬も、わずらわしいだけなのに」

 

望は、寂しそうに微笑んだ。

 

いくつになっても、女は好きな男を独占したくなってしまう。だけど男は、束縛されることを嫌う。

 

恋人や夫婦といった関係性を盾に文句を言う女もいるが、社長と従業員という関係でそれを発揮したら、ただのパワハラになってしまう。

 

「なるようにしかならないわよね。大丈夫、私情を挟むほど愚かじゃないわ。雪江もつまんないヤキモチ焼いてないで、今の状態を楽しみなよ。知らぬが仏」

 

「そうだね」

 

気がつけば、巧と出会った夏から4ヵ月経っていた。

 

これから寒い冬になる。人肌恋しくなる季節に、温めてくれる存在がいなくなるのは辛い。巧と会わない時間のことは考えないようにしよう。雪江は自分に言い聞かせた。

 

***

 

今夜も夫から残業報告のメールが届いた。

 

だけど巧には昨日会ったばかりなので、雪江はまっすぐ自宅へ帰った。

 

冷蔵庫のあり合わせで軽く食事をしてから、雪江は家計簿と経費の記帳をはじめた。

 

このところ、巧への支出が増えた。ハウスキーパー代は家計費から出しているが、仕事内容を雪江のサポート業務として外注扱いにすれば、巧に渡している小遣いやプレゼントは経費として計上(※)してもいいのだろうか。

 

内容がデリケートなだけに、税理士に相談するわけにもいかない。今度、望にあったら聞いてみようと雪江は思った。

 

レシートや領収書の束を、家計簿につけるものと帳簿につけるものに分ける。心がモヤモヤしているときは、頭を空っぽにできる単純作業が、気を紛らわせてくれる。

 

不意にひらめき、雪江はファイリングしてある分から、先月の夫のカード明細を取り出した。

 

(やっぱり……!)

 

〜監修税理士のコメント〜

※外注費として計上すれば、愛人に支払う費用を計上できる?


編集N 愛人を外注扱いにすれば、人件費として経費にすることはできるのでしょうか。

税理士 まず外注費について、おさらいしましょう。外注費にできるのは、たとえば以下のような内容です。

・外部の業者にアウトソーシングした費用
・業務請負に出した費用
・派遣会社などへの支払

編集N 派遣会社への支払いがOKなら、ハウスキーパー代ごと外注費にできますね!

税理士 それはダメです。そもそも内容が家事ならば会社の業務とは無関係なので、会社の経費にすることはできません。外注費は、外部の業者に仕事を発注した際に払う「手間賃」や「下請け賃料」などが該当しますが、通常は請負契約や委託契約を結ぶのが基本です。契約上の業務内容や成果物などからそれが会社の業務に関連していることを説明できなければ、経費にはすることはできません。

なお、材料や用具等が「業務の委託者(会社)」から提供されていて、時間的な拘束がある場合には「雇用」になりますので、そこで支払う対価は「給与」となります。


編集N ちなみにアルバイトの場合は?

税理士 その場合も「給与」ですが、会社の経理処理上は「雑給」になりますね。アルバイトの場合には時給・日給ともに最低賃金が適用されるので、たとえば5千円で8時間も働かせてしまったらアウトになります。ご注意ください。

編集N 愛人から成果物なんて出てこないし、だったら雑給で「〇月〇日5万円支給」とすれば問題なさそうですね。

税理士 「雑給」であっても仕事の内容が問題です。会社の業務でなく、役員宅の家事を頼んでいる場合には、その役員への給与とみなされてしまいます。つまり、雪江のハウスキーパーに対して会社が給与を支払ったときは、その金額は雪江に対する役員給与とみなされますので、雪江に所得税・住民税がかかってきます。個人的な支払いを会社の経費にすると後で高く付きますから、注意してください。


(つづく)
 

 

 

監修税理士:服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

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作家/コラムニスト

1969年4月3日生まれ。東京都出身。跡見学園大学短期大学部生活芸術家中退。
2006年デビュー。『人のオトコを奪(と)る方法』『「アブナイ恋」を「運命の恋」に変える!』『アラフォー独女の生きる道』他、著作多数。
豊富な体験と取材から得た“血肉データ”による独自の恋愛観が定評。浮気や不倫といった「大人の恋愛」に造詣が深い。
富裕層の家庭で育ち、自身も自営業として節税に励んでいる。
「AllAbout」「ハウコレ」等、連載多数。

著者紹介

連載連載小説・愛人節税

この物語はフィクションです。

 

 

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