税務調査で「愛人関連の経費処理」が暴かれた際のペナルティー

<あらすじ>妻から愛人・マナミとの証拠写真を突きつけられ、離婚を迫られた倉田。許しを乞うが妻の意思は固く、しぶしぶ了承する。その後、妻と離婚した倉田はマナミに結婚を迫るが「田舎へ帰ることになった」と断られてしまう。数々のマナミの言動に怪しさをおぼえた倉田は、妻が自分との離婚時に利用した興信所に連絡するのだが…? 一部の富裕層しか知らない「愛人」を持つことの金銭的な損得勘定に真剣に迫るリアル小説、男編〜最終回。

 

すべては夢だったんじゃないかと思う。むしろ夢であって欲しかった。

 

しかし現実は、倉田の想像を超えた形で明らかになった。「マナミ」なんて女は、どこにもいなかった。これまで愛人として、倉田にあらゆる角度から貢がせていた女は「真由美」だった。

 

福岡出身でもなければ、病気の母親もいない。税理士を目指していたことは、彼女の部屋で見かけた書籍やノートがあったから信じていたが、それだって今となっては真実か疑わしい。倉田を欺くためならば、きっと彼女はその程度の演出くらい朝飯前だろう。

 

むしろ勘違いであって欲しかった「別の男」の存在が、興信所に頼んだおかげで「居た」ことが確定し、倉田の膝は床に崩れ落ちた。

 

妻に出て行かれ、愛人にフラれた男ほど、みじめなものはない。

 

ほんの数ヵ月前まで、平穏な家庭と若い愛人を手中に収めていた。どちらも失い孤独になってしまう未来など、想像もしていなかった。

 

(天罰が下ったかな……)

 

もともと女遊びなどできるキャラではなかった。

 

山本にそそのかされ、道を踏み外してしまったのは、退屈な日常に「刺激」が欲しかったからだ。たとえゲームのような恋であろうと、マナミが自分の愛人でいてくれた間は、これまで味わったことのない高揚感に包まれた。

 

ドーパミンが多量に分泌され、いくらでも徹夜できそうなほど、仕事へのモチベーションも上がった。

 

「愛人のいる生活」は、倉田に若さとやる気をもたらした。マナミを何度も悦ばせられるよう筋トレをしたり、なんでも買ってあげられるよう営業に精を出したりした。

 

あの頃の自分は、39年の人生で最も輝いていた。妻を口説くために必死になった昔よりもずっと、「理想の自分」に近づけていたように思う。

 

「女がいなきゃ気合い入らないなんて、男として情けない」

 

昔、失恋して自暴自棄になっていた山本に、倉田は厳しく説教した。

 

今ならわかる。好きな女の存在こそが男を大きく成長させ、女の不在は男のモチベーションを枯渇させる。女の笑顔ほど、男の承認欲求を満たすものはない。孤独なままストイックに努力できるほど、男は強くない。

 

よろよろと立ち上がり、倉田はキッチンカウンターでグラスにバーボンを注いだ。

 

現実から逃げるためにアルコールを流し込み、カーテンを開け放し窓の外を眺めた。高層階ならではの夜景は、都会らしく煌めいている。

 

この景色が気に入って買ったマンションなのに、妻と夜景を楽しんだ夜は数えるほどしかなかった。あとは残業か山本と飲んでばかりで、妻のことはないがしろにしていた。

 

独りで夜景を眺めることの孤独。窓の外の景色が美しいほど、独りの時間が虚しく感じられる。

 

妻も、ここから独りで夜景を見ていたのだろうか。そのたび、夫の不在と渇いた夫婦生活を嘆いていたのだろうか。

 

+ + +

 

「これって、お前の元妻だよな?」

 

ある日、山本から女性誌を差し出された。

 

該当のページを見ると【最新美容医療】という特集ページの中に、別れた頃よりさらに美しくなった雪江が白衣姿で写っていた。

 

誌面で見る元妻は、まるで初めて見た人のように感じた。

 

よそゆき顔で写っているせいもあると思うが、離婚してから半年の間に分院の院長になっていたことが、何よりもショックだった。

 

雪江はとっくに別の道を歩き始めている。その間、自分は何の変化もない。それどころかすべてにやる気をなくし、酒に溺れ、業務でさえ外注のエンジニアたちが支えているおかげでなんとか回っているていたらくだ。

 

翌日、倉田は雪江のクリニックを探しに出た。雑誌に住所が出ていたので、分院はあっさり見つかった。

 

診療の終わる時間を見計らい、離婚以来はじめて雪江にメッセを送った。

 

近くのカフェにいることを伝えたら、雪江は10分ほどで現れた。

 

雑誌で見る以上に美しく、以前よりさらに痩せたように見えた。

 

もう一度、雪江と「男と女の関係」になりたい。今さらな欲望であることはわかっているが、すでに終わった関係だからこそ、伝えるのに勇気は必要なかった。

 

「なぁ、やり直さないか、俺たち」

 

しかし、雪江の答えはノーだった。

 

しばらく沈黙したのち、雪江はポツリとつぶやいた。

 

「資郎とは、夫婦より愛人になるほうが、きっと楽しいわよね」

 

えっ、と驚く倉田に不敵な笑みを残し、雪江は店を出て行ってしまった。

 

その言葉の意味が咀嚼できないまま、倉田はしばし茫然としていた。

 

+ + +

 

「パパ」を気分よくもてなし、代償に金品を貰う。

 

愛人ビジネスにおいて、その基本を破ってしまったら「解雇」されても文句は言えない。

 

愛人同士が友人の場合、もちろん友人側の「パパ」に対しても、愛人である友人の秘密を漏らすことはご法度だ。

 

倉田は真面目でいい人だったから、マナミのしたたかな計算にあっさり騙された。

 

可哀相な気もするが、そこは分別ある大人として、自己責任の範疇だろう。

 

ユカリのスマホに、マナミからメッセが届いた。

 

実の父親と後妻が住む、福岡の実家近くにアパートを借り、今は出産準備に追われているらしい。誰の子なのかは訊かなかった。

 

彼女の出身が福岡であること。マナミは源氏名で、本名は真由美だったこと。倉田の他にも、深い仲の男がいたこと。妊娠がバレないよう、強引に倉田と別れたこと。

 

すべて後になってマナミから聞いたが、ユカリにとっては別に知らなくてもいい情報だ。

 

倉田に伝わらないよう、山本にも何ひとつ打ち明けていない。

 

マナミは、倉田の妻のことをずっと意識していた。これも後になって聞いたのだが、その妻と自分の男が接近していたことを知り、それが気に食わなかったらしい。

 

「どっちも手に入れるなんて、図々しいよね」

 

アンタだって両方とつき合ってたんだから同罪ではないか……と思ったが、馬鹿らしいので黙っておいた。

 

男と女は騙し合いだと、ユカリはつくづく思う。

 

どれほど誠意を持って接しようと、たとえ夫婦であろうと、きっとお互い何らかの隠し事はあるはずだ。それを黙っているからといって、相手を裏切ったことにはならない。

 

男女の間で、秘密を探り真実を追求するのは、正義とはいえない。白黒ハッキリさせるより多様なグレーを受け入れるほうが安泰だし、セクシーな関係を維持できる。

 

だが恋愛や結婚とは違い、経理に「グレー」があってはならない。

 

「ユカリちゃん、どうしよう。ウチの会社、税務調査(※)入るって」

 

いつも楽天的な山本が初めて見せる狼狽した顔に、ユカリは思わず笑った。

 

「私に使った経費、節税どころか追徴になっちゃうね」

 

「ヤバいよー」

 

「潔く払いなって。私なんかのために嘘ついて、お上を敵に回しちゃダメよ」

 

でも私にまで迷惑かけないでね、とユカリはクールに言った。

 

 

(了)

 

 

~監修税理士のコメント~
※税務調査で不正な計上が見つかったらどうなる?

 

編集N 税務調査が入ったら、愛人関連の経費計上は全部バレるものなんですか?

 

税理士 愛人関連かはともかく、どんな経費も「業務と無関係(家事出費など)」なものが計上されていた場合は、経費が否認されて追徴課税の対象になります。

 

編集N 税務署の人から訊かれたとき、正直に愛人関連の経費だと申告しなければマズイでしょうか?

 

税理士 勘違いやうっかりミス、計算間違いなどであれば、正直に説明した方が良いでしょう。意図的なものでなければペナルティー(加算税や延滞税)も軽くなります。しかし、愛人に関する支払いを事実と異なる内容にして経費処理した場合には仮装処理となりますのでペナルティーが高くついてしまいます。

 

<おもなペナルティー>

・過少申告加算税(勘違いやうっかりミスなどの場合)

・無申告加算税(申告期限までに申告していなかった場合)

・重加算税(意図的な仮装・隠ぺい行為があった場合)

・延滞税(追加の本税に対する日割りの利息)

 

山本や倉田の場合、愛人に関わる出費が架空の給料や虚偽の出張名目で経費となっていると、上記の中の最も重い「重加算税」に該当して、高額なペナルティーが発生する可能性がありますね。

 

編集N まさか、脱税で逮捕されるとか……?

 

税理士 明確な規定はありませんが、一般的に刑事罰になるのは悪質な所得隠しが1億円を超えるような場合です。今回のケースでは逮捕などにはならないでしょう。でも、脱税は脱税です。逃れていた税金とペナルティーはしっかりと納めさせられますね。

 

編集N 天網恢恢疎にして漏らさず。悪いことはできませんね!

 

 

監修税理士:服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

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作家/コラムニスト

1969年4月3日生まれ。東京都出身。跡見学園大学短期大学部生活芸術家中退。
2006年デビュー。『人のオトコを奪(と)る方法』『「アブナイ恋」を「運命の恋」に変える!』『アラフォー独女の生きる道』他、著作多数。
豊富な体験と取材から得た“血肉データ”による独自の恋愛観が定評。浮気や不倫といった「大人の恋愛」に造詣が深い。
富裕層の家庭で育ち、自身も自営業として節税に励んでいる。
「AllAbout」「ハウコレ」等、連載多数。

著者紹介

連載連載小説・愛人節税

この物語はフィクションです。

 

 

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