ネット通販の業績が伸び、全米物流倉庫の家賃もアップ
前回(『中国人投資家に売却の動き!? 揺れる「米国不動産市場」の現況』関連記事参照)は、中国人投資家が米国商業不動産市場で売却に転じたことを紹介しました。今回は、インダストリー不動産について見ていきましょう。
まずは、全米REIT協会が公表しているセクター別REIT保有物件の稼働率推移を見てみます。ここ数年、インダストリーREITのパフォーマンスは、共同住宅REITのそれを上回るようになりました。
着目すべき点は、アマゾンなどのネット通販の業績が伸びたことで、物流倉庫のニーズが急速に高まったことです。ネット通販売上はすでに従来型店舗売上の3倍になっており、今後毎年10%超で市場が拡大し、2020年までに5兆米ドル〔日本GDP規模水準〕に成長する見通しです。
全米物流倉庫の家賃成長率も、2013年から2018年まで一貫して+4〜7%の伸びを継続しています。直近2018年第2四半期も、+6%を維持している状態です。
西海岸の大都市圏にある倉庫は「ほぼ完全稼働状況」
次に、全米インダストリー市場規模を見てみましょう。
全米には130億平方フィート(≒12億㎡)の既存スペースがあります。そのうち物流倉庫は全体の74%(96億平方フィート≒8.7億㎡、日本は1.6億㎡〔出所:法人建物調査〕)を占めており、製造業は残り26%となっています。
一方、2018年第2四半期までの新規需要のうち、89%が物流倉庫に集中しています。また、建設中のインダストリー物件の94%が物流倉庫になっています。
特徴的なのは、ロケーションが全くの郊外というよりは、消費地を抱える大都市圏内の成熟した場所(「ラスト1マイル(≒1.6km)」と呼ばれます)に、配送センターを設置する傾向があることです。さらに、これまで平屋がほとんどだった倉庫が、複数階化しつつあります。
それでは、全米物流倉庫市場で最も稼働率が高い市場を見ていきましょう。
1. ロサンゼルス 98.6%
2. サンフランシスコ・ペニンシュラ 97.9%
3. オレンジ郡 97.6%
4. シリコンバレー 97.3%
5. シアトル 97.3%
(出所:JLL、2018年第2四半期時点)
西海岸の大都市圏はほぼ完全稼働状況にあります。主要幹線道路沿いにあるロサンゼルス郊外インランドエンパイア、アリゾナ州、ネバダ州、サンフランシスコ・ベイ地区ですと、サンフランシスコの対岸であるイーストベイ、内陸のサクラメント等の周辺地へと需要の浸透が進んでいます。
一方、全米物流倉庫市場で最も賃貸面積(過去1年純増加面積)が大きかった市場は、以下のサブマーケットとなっています。
1. シカゴ 12百万平方フィート
2. インランドエンパイア 11百万平方フィート
3. ニュージャージ 10百万平方フィート
4. ダラス/フォトワース 9百万平方フィート
5. 東および中央ペンシルバニア 8百万平方フィート
以上、賃貸の需給関係について見ましたが、投資家の見地からインダストリー物件が他の不動産種類と比較して、資本市場からどのように評価されてきているのか、セクター別REIT時価総額の伸び率を見てみましょう。
1. 商業不動産向け融資 +8.9%
2. ホテル +8.8%
3. セルフストレージ +7.4%
4. 物流倉庫 +5.2%
5. プレハブ住宅 +4.8%
米国物流倉庫不動産専門調査会社のアビソンヤング社によると、今後12〜18カ月の間は米国経済好調とネット通販の成長により、インダストリー業界のファンダメンタルズは今後も引き続き強い状況が継続し、稼働率および家賃の上昇が継続すると見ています。
小川 謙治
クラウドクレジット株式会社 商品部 商品組成担当マネージャー
(本記事の内容は筆者個人の分析・見解です。また、本記事は不動産事業に関する情報提供のみを目的とするものであって特定のファンドへの投資の勧誘を意図するものではありません)