13億米ドル分の不動産を中国人投資家が一気に売却!?
前回(『成長にブレーキ!? 2018年以降の「米国REIT市況」』関連記事参照)は、2018年前半の米国REITの動きを紹介しました。今回は、中国人投資家が米国商業不動産市場で売却に動き出したことに着目していきます。
連載第44回(『2017年米国不動産市場における「外国人投資家」の動向』関連記事参照)で、米国不動産市場における外人投資家の動きを紹介しましたが、外人投資家の中でも、中国人はとりわけ大きな存在感がありました。
RCA社によると、2000年より累計541億米ドルを米国商業不動産に投資をしてきた中国人投資家が、ついに2018年第2四半期にはじめて売り手に回ったと言います。中国人投資家が今まで単年度期間中に売却した平均金額をはるかに超える13億米ドルを、この四半期に売ることになったそうです。
四半期だけの動きでトレンドが形成されたとは言い切れませんが、2015年と2016年が買いのピークであったことは明らかでしょう。
とはいえ、中国人投資家が保有する事務所ビルは依然多く、賃貸面積にして24百万平方フィート(≒2.2百万㎡)にもなります。もっとも多く処分したのは共同住宅で、2000年以降25億米ドルで購入したという共同住宅は、半値以下の11億米ドルで処分されています。中国人投資家は共同住宅を引き続き14,000戸保有していますが、そのうち4,000戸は売却中と言われています。
中国人投資家が多く所有していたNY不動産は6%下落
一方、全米主要6大都市圏の商業不動産市場動向は、以下のグラフが参考になります。ボストン、サンフランシスコ・ベイ、ロサンゼルス、シカゴは未だ新高値を更新しつつあり、ワシントンDCは2015年をピークに若干下落、最近は回復基調にあります。なお6大都市圏のうち、ニューヨークだけがピークから6%下落しました。
連載第44回でも言及したように、中国人投資家の投資先の約半分がニューヨークということもあり、中国人が一斉に売りに動けば、当然価格押下げ圧力が増すことになります。
米中貿易摩擦による米中関係悪化、また中国経済が本格的に景気後退したことで、政治的に大混乱にあるとも言われていますが、本当のところは不透明です。
新規建設の前年比からの動きを、都市毎および種類毎に見てみましょう。事務所ビルで前年比大幅増加しているのは、ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストン、シカゴの4都市圏です。共同住宅をみると、ニューヨークとサンフランシスコ・ベイが前年比微増となっています。やはりここでも、ニューヨークが注意すべき市場となっているようです。
ニューヨーク市場での新規供給に加え、売り手側からの圧力も増した結果起こってしまった値崩れ。これがトレンドになるのかどうかは、もう少し様子を見るしかないでしょう。
小川 謙治
クラウドクレジット株式会社 商品部 商品組成担当マネージャー
(本記事の内容は筆者個人の分析・見解です。また、本記事は不動産事業に関する情報提供のみを目的とするものであって特定のファンドへの投資の勧誘を意図するものではありません)