まずは「現状の物件」と「立地の適合性」を考える
赤字に陥ってしまった賃貸住宅の収支を改善させる上で、まず考えなければならないのは、現状の物件が立地しているエリアのニーズにマッチしているか、将来も十分なニーズが見込めるかを改めて検証することです。
第一に取り組むべきは、徹底的な現地の調査です。自分の所有物件がある場所はどんな特徴を持つエリアで、どんな人たちが住み、その人たちが求める住まいはどのようなものか、家賃相場はいくらほどなのか――これらを明確にしなければ、その後の改善計画を立てることができません。基本的に、どんなに築年数が古い物件であっても、その地域に住む人々に適した間取りや設備、家賃設定になっていれば入居者はつきます。家賃を下げても人が入らないという場合は、そもそも物件がニーズに合っていないことを疑わなければならないのです。
新築時には住宅メーカーなども事前の市場調査を行うといっていますが、実際のところはあまり精度は高くありません。営業担当者などが会社のパターンに則って地元の情報を多少集めて、設計部門にインプットする程度です。
住宅メーカーの設計士は設計のことしか知らないため、営業担当者から得た情報を十分に活かせずに、「賃貸住宅はこうあるべき」あるいは、「こうなっていくはず」といった思い込みで図面を描いていくことがあります。それが実態と合っていなければ、絵に描いた餅です。それでも新築時は家賃設定さえ極端に高くなければ入居者を確保できるはずですが、一定の年数を経ると確実に、かつ急速に競争力を失っていきます。
競争力の低下を避けるためには、オーナー自身が自分の目で徹底して現地調査することが不可欠です。地元の情報は不動産会社が一番よく知っていますから、まずは地元に強い不動産会社に聞いてみましょう。
金融機関などを利用して不動産会社を紹介してもらいたいところですが、そうしたツテがなければ、客として付近の不動産会社に入ってみます。賃貸住宅の賃料は新築でいくらぐらいなのか、年数が経つとどの程度下落するのかといった基本的なことから、周辺の賃貸住宅に住んでいる人たちの勤務先はどのあたりで、どんな職種や収入の人が多いのか、家族構成はどうかといったことまで聞いてみてください。
たとえば、私の住んでいる東船橋であれば、電車で20分から30分程度の錦糸町や日本橋方面に勤めている会社員が中心で、独身かディンクス(DINKs=Double Income No Kids)、あるいは子どもがまだ小さい夫婦が多く、1LDKなどの賃貸住宅が求められる傾向が強まっています。こうした情報は、地元で長年不動産の仲介を行っている業者に聞かなければ分からないものです。
また、錦糸町や日本橋方面に30分程度で通える他のエリアには、たとえば埼玉県の越谷などがありますが、そこと比べると東船橋の家賃相場は高いのか、安いのかなどといったことも検討材料になります。そのエリアの特色と同時に、通勤などの関係から競合しそうな他のエリアについても調べておかなければなりません。
街の雰囲気や生活レベルを「自分の足」で調査
賃貸住宅のオーナーがないがしろにしてしまいがちなのが、足を使った調査です。自分で歩いてみれば、街の雰囲気を肌で感じることができますし、どんな人たちが住んでいるのかがよりリアルに分かります。できれば、平日の朝・昼・晩と時間を変えて訪ねてみると、その街のさまざまな表情を見ることができます。昼は比較的静かな街だなと感じても、夜は防犯面などで不安を感じることがあります。そうした場所だと、独身女性の入居者はあまり期待できないことなどが考えられます。
平日と週末の比較も必須です。郊外の駅だと週末には買い物などの車で混雑し、駅前に続く幹線道路でたいへんな渋滞が発生するといったケースがありますし、逆に週末しか見ずに比較的静かな街だなと思っていると、平日は工場の騒音や臭いが気になるといった違いもあったりします。
エリアに住んでいる人の特徴は、地元の不動産会社への聞き込みである程度の傾向をつかむことができますが、それでは自分の目で確かめたことにはなりません。そこで私は、調査したい街の駅前でよく客の入っている居酒屋に入ってみることがあります。居酒屋であれば、わざわざよその場所から来る人は少ないでしょうから、客の多くは地元に住んでいるか、地元で働いている人たちです。
細かいことに思えるかもしれませんが、客がどんな服装で、ネクタイ率はどうかを見るだけでも、会社員が多いのか、工員や職人が多いのかなどをある程度推察できます。
また、店の平均単価などもチェックしてみてください。何となく収入のレベルや、生活スタイルを推し量ることができるはずです。
不動産会社での聞き取りや街で得られた情報を箇条書きに整理してみると、そのエリアの特色が浮き彫りになり、なぜ自分の物件に人が入らないのかが分かってくるものです。
最近私がコンサルティングを通して見た例では、東京の江東区木場の事例がそうでした。地下鉄の駅から徒歩10分ほどの場所で、1LDK、2LDKの少人数世帯ファミリー向けの物件です。しかし、このエリアではシングルやディンクス向けの賃貸がほとんどで、ファミリー物件が少ないために適正家賃がなかなか判断つきません。そこで、現地を歩き回り、いろんな情報を収集して、周辺の門前仲町、清澄白河などまで広げて調査を行いました。
こうして値付けした結果、比較的短期間で入居者が決まりました。ファミリー向けの物件が少ないだけに、むしろファミリー向けが出るのを待っていた人たちも多かったのではないでしょうか。オーナーさんからはたいへん感謝されましたが、これほど簡単に決まるのなら、もう少し家賃を高く設定することも可能だったかもしれません。