前回は、収益物件のローン負担を軽減する銀行交渉術を取り上げました。今回は、賃貸不動産経営を有利にする、金融機関との融資交渉の方法を見ていきます。

資金繰りシミュレーションを作成、収益向上をアピール

銀行員は基本的に保守的ですから簡単には交渉に応じてくれません。彼らの評価は減点主義なので、余計なことをして失敗すると会社からマイナス評価を受けてしまいます。何もしなければ少なくとも減点の対象にはならず、平均点を確保できるので最も安全なのです。

 

たとえば、新しい会社に新規の融資を行うのは勇気がいります。成功すれば大きなポイントですが、それよりは失敗によるマイナスを考えてしまい、簡単には動いてくれません。同様に、一定の取引のある会社とはいえ、融資枠を拡大したり、追加融資したりする、また既存のローンの返済条件を変更するといった、これまでの関係を変更することも嫌がります。その結果によっては減点の対象になってしまうからです。

 

特に返済条件の変更は、銀行経営にとっては基本的にマイナスになることですから、そもそも簡単な交渉ではありません。現状維持が最優先の銀行員にしてみれば、できる限り避けたい案件といっていいでしょう。

 

そんな彼らを説得するためには、それなりの材料を提供する必要があります。確定申告時に提出する決算書や家賃の明細書などを付けるのは当然ですが、物件資料も添付します。部屋ごとの間取り図、広さ(m2数)などのほか、入居率などの稼働状況についても最近の動向をまとめておきます。もちろん、相手は銀行ですから、お金の出入りを明確にすることも重要です。預金の明細も添付して、資金繰りをガラス張りにしておきます。

 

しかし、それだけでは赤字物件の場合マイナス面ばかりが目立つことになります。ですから、私の場合には図表にあるようにシミュレーション表を作成します。現在の年間の収支がどうなっているのか、金利の引き下げや返済期間の延長に応じてもらえれば、どのように収支が改善されるのかを試算するのです。

 

その結果によって現状に比べてどれくらいの資金を浮かせることができるのか、その浮いた資金を何に投資するのか、そしてその結果入居率の改善や家賃の向上などがどの程度見込めるのかまで明確にできれば、かなり説得力が高まります。

 

[図表]借り換えのための資金繰りシミュレーション例

知り合いに金融機関を紹介してもらい、当たるのも手

銀行は、担保として入れている土地の評価額が担保割れしなければ、損をすることはありません。どんな条件であろうと最後に貸した金が返ってくればいいのです。ですから、いかに収益を上げて返済していくかという明確な戦略を立てることが重要です。

 

それでも、現在取引している銀行ですぐに決まるわけではありません。なかなか首をタテには振ってくれませんから、その場合には他の金融機関も回ってみましょう。

 

とはいえ、まったく取引のない銀行を闇雲に訪問しても埒は明きません。特に金融機関の世界は縁故がものをいいます。ですから、知り合いの税理士、工務店や住宅メーカーなどに紹介してもらうのもひとつの手です。彼らは、日常的に金融機関と付き合いがあるはずですから、何軒か紹介してもらって順番に当たっていけば、どこかで鉱脈を見つけることができるはずです。

金融円滑化法の施行で銀行の対応は軟化傾向

銀行との交渉はそんなに簡単ではないはず、ほんとうに交渉が可能なのだろうかと疑問を持つ人もいるでしょう。しかし、それほど恐れる必要はありません。銀行の対応も最近は随分と変わってきています。

 

特に2008年のリーマンショック後、中小企業の事業資金返済、個人の住宅ローンの返済に行き詰まる人が急増したため、救済策として「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(金融円滑化法)が施行された影響が大きかったと思います。

 

この法律によって、中小企業や個人からローンに関する条件変更の申し込みがあったときには、金融機関は融資条件の変更などに適切な措置をとると同時に、融資条件の変更などの措置を適切かつ円滑に行うことができるように、銀行内の体制整備を行うことなどが義務付けられました。

 

これによって、中小企業や個人からの条件変更の申し込みが急増し、各金融機関はその対応状況について、何件の条件変更の申し込みがあり、うち何件について条件変更を実施したかなどを定期的に公表するようになりました。それまで門前払いが当たり前だったために、条件変更を申し込むケース自体が少なかったのですが、この法律によって申し込みが急増、返済額の減額などによって救われる企業、個人が急増しました。

 

この法律自体は2013年3月末で期限切れになりましたが、その後も金融庁は金融機関に対して、金融円滑化法に基づく柔軟な対応を求めています。

 

たとえば、みずほ銀行では、現在でも3か月に1回、ホームページで「貸付条件の変更等の実施状況」を公表しています。それによると、2015年1〜3月の住宅ローンの条件変更申し込みは1万9579件で、うち1万6866件で条件変更が実施されています。謝絶は1597件で、その他継続中などとなっています。全体で見れば、9割近くの案件で条件変更が実施されているわけで、銀行としてもかなり柔軟に対応している実態が分かります。

 

これは、中小企業の事業資金についても同様。2015年1〜3月の申し込みは16万8704件に対して、条件変更実施実績は15万8520件。その割合は9割を超えます。条件変更の内容までは分かりませんが、かなりの企業、個人が救済されているのは間違いないでしょう。

 

とはいえ、何でもかんでも条件変更に応じてくれる銀行はありません。まず今借りている銀行に金利の見直しを相談し、それがダメなら他行への借り換え、それでもダメなら返済期間のリスケといった段階を踏んで進めましょう。条件変更の際には事業計画書、資金計画が必須であることはいうまでもありません。

金融機関にとっても、賃貸住宅は有望な投資先

ハードルが高いと思われがちなメガバンクでもこれほど柔軟に対応しているのですから、地方銀行や信用金庫はより可能性が高いかもしれません。

 

しかも、金融機関としては一般企業の資金需要が停滞していることもあり、個人部門、リテール部門に力を入れています。その一環として賃貸住宅への融資に熱心な銀行が少なくないのです。

 

国土交通省の「平成26年度民間住宅ローンの実態に関する調査」によると、2013年度の自己居住用の住宅ローンの資金の貸出額は約16.1兆円でした。2010年度は約14.7兆円でしたから、3年間で9.5%の増加です。一方、賃貸住宅用のアパートローンなどの新規貸出額を見ると、2010年度は1.3兆円だったのが、2013年度は1.9兆円に増えています。

 

3年間で5割近く増えた計算です。居住用の住宅ローンと、賃貸住宅用のアパートローンでは、市場規模が大きく異なり、賃貸住宅用は居住用に比べて10分の1程度にとどまっています。しかし、逆にいえばだからこそ、金融機関にとってはこの分野が今後の成長分野として期待できるという見方もできます。少なくとも、3年間で融資額が5割も増えるほどの魅力ある分野であることは間違いありません。

 

 

川口 豊人

株式会社コンシェル川口 代表取締役

マンションオーナーの赤字脱却術

マンションオーナーの赤字脱却術

川口 豊人

幻冬舎メディアコンサルティング

相続対策や資産運用目的でアパートやマンションを購入する人が増えましたが、不動産取得後の運用に苦しむオーナーは少なくありません。 賃貸物件は供給過多であり、借り手は減り続けています。実際に東京都内でも空室率は12%…

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