「金利引き下げ・返済期間延長」等で資金繰りに余裕を
いくら市場調査をして赤字の原因が分かっても、先立つものがなければ対策の講じようがありません。すでに赤字に陥ってしまっている場合の第一の処方箋は、ローンの負担軽減策です。金融機関との交渉で金利の引き下げや返済期間の延長などの対応策をとれば、毎月の返済額が大幅に減額され、資金繰りに余裕ができます。
しかし、余裕ができたからといって「これで安心」と思わないでください。大切なのはそれからです。金利引き下げ、返済期間の延長などはあくまでも手段であって、目的はそれによって得られる余裕を活かして賃貸住宅に再投資することです。リフォームで設備や仕様を改めて入居者を確保しやすくするのです。そうすれば、賃貸住宅経営の内容は飛躍的に改善されます。
それまでは、老朽化、入居者の減少、家賃の低下といった状況にもかかわらず、資金難で何も手を打てないためにさらに老朽化が進んで空室率が上昇――といった負のスパイラルだったのが、資金繰り難が解消された結果、リフォームを実施することによって入居者を確保できるようになり、さらなる改善によって賃料のアップにつなげることができます。負のスパイラルから一転してプラスの好循環が始まるのです。
ここでは金融機関との交渉による返済負担軽減の方法について取り上げます。
オーナーの皆さんのなかには、銀行といえば、天気のいいときに傘を差しかけ、天気が悪くなると取り上げる、そんなふうに思い込んでおられる方が多いようです。そうした体質が強いのは事実ですが、しかし、それもこちらの対応しだいです。
現在の天気は悪くても、今後天気が回復する確実な見込みがあれば、傘を持たせてくれるものなのです。問題は、その先行きの天気の改善見込みを担当者に明確に伝えることができるかどうかという点にかかってきます。適切な資料などの説得材料によって担当者を納得させることができれば、条件変更などを実行するための稟議書を作成してくれるはずです。説得力のある稟議書ができれば、支店長や本部の決裁を得て、こちらの希望に対応してくれるようになるものです。
私自身、祖父から賃貸住宅の経営を引き継いだときにまず着手したのが、この銀行との交渉でした。何しろ平均7万円だった家賃が半分の3万5000円まで下がっていたのですから、抜本的な対策を打たないことには事態は改善されません。しかし、対策を打とうにも原資がありません。その対策を打つための資金を捻出するために、まずは銀行との交渉が不可欠だったのです。
もちろん、それまで銀行の人とはほとんど話したこともありませんし、どうすればいいのかまったくの手探り状態でした。でも、やってみれば何とかなるものです。交渉の結果、祖父から引き継いだときのローンの平均金利が3.8%だったのを、まずは半分以下の1.8%に下げることができました。しかも、その後再度の交渉によって、現在は5年固定の0.79%になっています。当初からすれば、5分の1程度の金利です。
その後、コンサルティングに携わるようになってからも、赤字経営で苦しんでいるオーナーのお手伝いで、何度も金融機関との交渉に当たってきました。
複数の金融機関に当たり、金利引き下げを実現
これは東京都世田谷区で賃貸住宅を経営されている方の例ですが、私がコンサルティングに関わり始めたときの平均金利は2.5%でした。それをまずその時点で取引のあった銀行と交渉して2.0%に下げてもらいました。当時は市中の金利が下がり続けている時代でしたから、銀行も金利引き下げ要求を無視ばかりしていると他行に変更されてしまうリスクがあります。そのため、多少の交渉には応じてくれるようになっています。
それでも、同じ銀行内ではそれが限度だったので、次には別の金融機関に当たって、2.0%を1.8%に下げて、併せて返済期間を延長してもらいました。金利引き下げ幅は小さいのですが、期間の延長で格段に返済額は減少しました。その後、さらに別の銀行と交渉して現在は金利1.0%で利用しています。
このオーナーさんは、そんなことができるなどとはまったく考えていなかったので、たいへん感謝されましたし、実際に賃貸住宅の収支も大幅に改善されました。
もちろん、この時期は経済停滞が続いて長期金利が下がり、住宅ローンやアパートローンの金利も低下が続いていた時期です。その意味では、客観情勢が味方してくれた面もありましたが、それにしてもこちらから積極的に働きかけないことには何も事態は動きません。
当たり前のことですが、銀行のほうから「金利が下がっていますから、川口さんの金利も下がりますよ」などと提案してくれるはずはありません。銀行としては、高い金利のままのほうが儲かるのですから、企業経営を考えればそれが当然のことです。それだけに、こちらから積極的に働きかけなければ、何も始まらないのです。
川口 豊人
株式会社コンシェル川口 代表取締役