今回は、日本の「木質エネルギー活用」が大幅に遅れている理由を探ります。※本連載では、筑波大学名誉教授、日本木質ペレット協会顧問、日本木質バイオマスエネルギー協会顧問である熊崎実氏の著書、『木のルネサンス――林業復権の兆し』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、日本とドイツにおける「木質バイオマス」エネルギー利用の現状と今後の展望を探ります。

木材産業近代化の遅れが、木質バイオマスの利用を阻む

ドイツの木質エネルギービジネスは、国内の木材産業の展開と一体になって発展した。我が国では、そうした連携が進まず、建設廃材利用の発電と紙パルプ工場での黒液・木屑のエネルギー化の枠から抜け出すことができなかった。端的に言えば、木材産業の近代化の遅れが木質バイオマスの近代的利用を阻んでしまったのである。

 

木質バイオマスの本格的なエネルギー利用に先鞭をつけたのは、北米の林産業であった。1960年代から1970年代にかけて製材工場や紙パルプ工場の大型化が進む。1年間に何十万立方メートルもの原木を潰す木材加工工場であれば、排出される残廃材の量もまた膨大で、この処分が頭痛の種であった。

 

こうした状況のもとで、残廃材をチップにしてボイラで燃やしたり、あるいはパルプ廃液(黒液)を回収ボイラで燃やして、熱や電気を生産する方式は、残廃材処理の難問に片を付けると同時に、木材の加工や製品の乾燥に要するエネルギーを調達する一挙両得のやり方であった。当時の北米の林産業界は、「自社で必要なエネルギーは自社で賄う」というスローガンを掲げて、木屑類のエネルギー利用に邁進するのである。

 

発電方式としては蒸気タービンによるものだが、主たる目的は自社で必要な熱を得ることで、電気はいわば副産物であった。一定の温度と圧力の蒸気を確保することができれば、発電効率が多少低くても、まったく苦にならない。

 

大型の木材加工場に組み込まれた発電事業は、安価な燃料が十分に確保されたうえに、生産された熱と電気の出口も保証されており、磐石の基盤を持っている。原油価格がバレル10ドル以下の時代でも、その優位が揺らぐことはなかった。

 

その後、アメリカでFITの走りとされる「公益事業規制政策法(PURPA)」が1978年に成立して、15~50メガワットのバイオマス発電所が多数建設されたが、原油価格の下落、効率的な天然ガス発電の台頭、電力の自由化による電気料金の下落、さらには燃料用チップ価格の急騰が重なって、多くの発電専用プラントは撤退を余儀なくされた。木質バイオマス発電の本来の姿は、林産業などに組み込まれた熱電併給のシステムなのである。

 

日本の木材産業の中で紙パルプ産業だけは、国際的な流れに沿って順調に発展した。それは、大規模工場が要求する大量の木質原料を海外から輸入することができたからである。合板工場や製材工場なども外材の入るところは大型化したが、ほぼ例外なく木屑焚きのボイラを設置して必要な熱を賄っていた。

 

ところが、国産材を挽く小型の製材工場は、潰す原木量に比例して木屑は出るけれども、絶対量が少ないからボイラが入れられず、入れたとしても人工乾燥するほどの製品もない。

 

引取り手のない木屑は、だいたい燃やしていた。ところが、ダイオキシン問題で野焼きができなくなり、廃棄物処理業者に1トン当たり1万円か、それ以上の対価を払って処分してもらうしかなくなった。

 

しかし、外に目を向けると、1990年代初頭のスウェーデンでは、産業廃棄物とされるような低質のバイオマスが燃料として有効に利用され、木材不況に苦しむ林産業を大いに助けていた。

 

筆者が木質エネルギーに関心を持つようになったのは、これがきっかけである。やがて、ドイツやオーストリアでも木材加工工場の大型化が進み、工場残材は余すところなく利用されるようになった。

 

木質燃料のもうひとつの供給源は、森林から構造用材などを伐り出したあとに残る「林地残材」である。

 

最近は、皆伐が減って間伐や択伐が多くなった。この場合は、山に入って木を伐り倒すことになるが、その場で枝を払ったり、玉切りしていたのでは、残材が林内に散乱して集めづらくなってしまう。

 

枝葉の付いたまま林道端まで引きずり出して造材作業の全部を機械でやってしまうシステムの導入が不可欠となるが、路網が完備していないと高性能な機械は入れられない。

日本で「木質バイオマス利用の持続」は不可能!?

ドイツ在住のジャーナリスト・村上敦は、再生可能エネルギーの中でも「木質バイオマスは要注意だ!」として、次のように警告する。

 

「とりわけ日本では、これまで森林を放置してきたにもかかわらず、木質バイオマス資源を有効利用したいと願う、おかしな地域がたくさんあります。そもそも森に高規格の林道が入れられていないのに、木質バイオマス利用が持続可能にできるわけがありません」

 

「林業がすでに十分活発で、木材生産がすでに盛んに行われている地域でなければ、バイオマスの利用は諦めましょう。カスケード利用の上では、一番優先順位が低いはずの木質バイオマスを、わざわざ道なき山から下ろしてくるなどという計画は馬鹿げています」

 

「バイオマスよりも、まずは単価の高い木材を製造し、製材所で発生するゴミを活用するというスタイル以外ではお勧めできません」

 

村上氏の指摘は、問題の核心を突いている。しかし、この種の「おかしな地域」があちこちに出てきたのはどうしてだろうか。その最大の理由は、FITがスタートして発電用の木質バイオマスが高く売れるようになったからである。

木のルネサンス――林業復権の兆し

木のルネサンス――林業復権の兆し

熊崎 実

エネルギーフォーラム

森林政策の第一人者が、地域における「エネルギー自立」と「木材クラスターの形成」を説く。

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