今回は、「カーボンプライシング」とは何かを詳しく説明します。※本連載では、筑波大学名誉教授、日本木質ペレット協会顧問、日本木質バイオマスエネルギー協会顧問である熊崎実氏の著書、『木のルネサンス――林業復権の兆し』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、日本とドイツにおける「木質バイオマス」エネルギー利用の現状と今後の展望を探ります。

FITはあくまでも「再エネ電気」の振興策

FITとの長年の付き合いを通して得られた結論は、木質エネルギーの振興策としてFITは適切でないということである。FITは、あくまでも再エネ電気の振興策である。発電コストの低い技術を優先するのは当然だろう。しかし木質バイオマスの本領は、電気ではなく熱供給にある。

 

英国でのFITの導入は比較的遅く2010年のことだが、バイオマスの本命は熱供給であるとして、電気のFITから外してしまった。

 

これにも歴史がある。2003年に英国の環境・食料省(Defra)と、エネルギー問題を所管する通商産業省(DTI)は共同で、バイオマス・タスクフォースを立ち上げていた。その最終報告書では「再生可能な電力が過度に重要視される一方で、バイオマスによる熱生産が持っている炭素削減の能力が軽視されている」として、新しい支援策の必要性を強調した。

 

電気のFITから外されたバイオマスを視野に入れて、2011年に「熱のFIT」とも呼ばれる再生可能な熱の助成制度(RHI)がスタートする。

 

新しい制度の眼目は、再生可能な熱の生産コストと化石燃料による熱生産コストとの差を政府の補助金で埋めることである。不運なことに、上昇を続けていた石油価格が一転して下降傾向に転じていたため、RHIへの申し込みが殺到した。政府の予算枠が決まっていたから、新設プラントへの助成率がドンドン引き下げて対応するしかなかった。FITは、電気でも熱でも効き目は抜群だが、副作用も大きい劇薬である。

炭素削減を重視するならFITよりも「炭素税」を

炭素削減を重視するなら、FITよりも炭素税のようなカーボンプライシングが有効である。

 

この場合に決定的に重要なのは、温室効果ガス一単位を削減するに要するコストだが、有用な分析ツールとして使えるのが、英国の気候変動委員会(CCC)が提案した温室効果ガス削減の限界費用曲線(MACC)である。例えば、木質バイオマスの分野で、どのようなポテンシャルがあるか、その全体像を把握することができる。

 

以下の図表は、木質バイオマスを想定した仮想のものだが、横軸には各種の技術(手段)によって削減可能な二酸化炭素のトン数が示され、縦軸には1トンの二酸化炭素を削減するに要するコスト(限界費用)が取られている。コストの低いものから順に横に並べられていて、横方向に集計すると総削減量になる。

 

[図表]温室効果ガス削減の限界費用曲線木質バイオマスによる熱供給と発電を想定
した仮想図

出所)限界費用曲線(MACC)の概念は、英国の気候変動委員会(CCC)    “Building a low-carbon economy-the UK’s contribution to tackling climate    change”2008による
出所)限界費用曲線(MACC)の概念は、英国の気候変動委員会(CCC)
   “Building a low-carbon economy-the UK’s contribution to tackling climate
   change”2008による

 

この話は次回に続く。

木のルネサンス――林業復権の兆し

木のルネサンス――林業復権の兆し

熊崎 実

エネルギーフォーラム

森林政策の第一人者が、地域における「エネルギー自立」と「木材クラスターの形成」を説く。

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