今回は、日本の森林バイオマス活用を阻む、林道の整備の問題について説明します。※本連載では、筑波大学名誉教授、日本木質ペレット協会顧問、日本木質バイオマスエネルギー協会顧問である熊崎実氏の著書、『木のルネサンス――林業復権の兆し』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、日本とドイツにおける「木質バイオマス」エネルギー利用の現状と今後の展望を探ります。

近年、森林チップの利用量は急増しているが・・・

ドイツで木質燃料として消費される量は、丸太換算で6500万立方メートル、マテリアル利用と同じくらいの量になっていた。

 

日本では、どれくらいの量が消費されているであろうか。これまで木質燃料についての統計が系統的に整備されておらず、全容を把握することができなかった。ようやく2017年から林野庁の「木質バイオマスエネルギー利用動向調査」が始まった。この調査の目的は、木質焚きボイラや発電機を有する事業所を対象にして、設備の状況と木質バイオマスの利用量を明かにすることである。

 

2018年の調査結果によると、木質バイオマスの利用量は、主力の木質チップが絶乾で773万トン、それ以外で115万トンである。

 

後者には、木質ペレットや薪、おが屑、剪定枝などが含まれる。これを丸太材積に換算すれば2000万立方メートルくらいにはなるだろう。事業所におけるバイオマス利用量を業種別に見ると、発電や熱供給などのエネルギー関係が最も多くて33%、次いで紙パルプ関係の28%、木材加工業の23%、その他製造業の13%となっている。

 

木材チップは全利用量の87%を占めるが、その出所や由来を辿ると、建設廃材が52%を占め、今日でも最大のシェアを持っている。

 

注目してよいのは、森林からの間伐や林地残材が25%となり、工場残材の21%を上回るようになったことだ。業務資料を基にした林野庁の推計によれば、森林チップの利用量は2011年から2016年にかけて58万立方メートルから422万立方メートルに急増している(以下の図表参照)。ようやく森林バイオマスのエネルギー利用が本格化してきたと見てよいであろう。

 

[図表]間伐材・林地残材由来の木材チップの利用量 単位:丸太換算1000m3

出所)林野庁木材利用課業務資料より作成
出所)林野庁木材利用課業務資料より作成

ドイツより遥かに大きい「資源的なポテンシャル」

問題は、この増加傾向がどこまで続くかである。

 

前述したことだが、何年か前までは間伐しても木を伐り倒したまま放置されることが多かった。また太い幹材だけを搬出して、小径木や枝条は、山に残すのが普通であった。それが、発電用チップの需要増加と価格の上昇で状況が変わってきたのである。量的には、まだ400万立方メートル程度にとどまっており、ドイツに比べれば桁違いに少ない。

 

だが、資源的なポテンシャルからすれば、ドイツよりずっと大きく、大幅に増やす余地が残されている。

 

国内の森林に膨大な林木ストックがあるにもかかわらず、毎年その成長量の2割くらいしか利用されていない。それというのも、木材を運び出す路網が整備されていないからだ。これからの森林伐採は、人工林なら間伐、天然林なら整理伐が中心になる。林道が入っていないとどうにもならない。

 

国内の森林の多くは長年にわたって放置されてきたために、そのまま構造材として使える良質の木は少なく、燃料にしかならないような低質材が多い。いずれにしてもエネルギー用木質バイオマスのストックは巨大だが、燃料材の価格自体は安いから、そのためだけに道を入れて伐り出すわけにはいかない。森林バイオマスの利用をさらに増やそうとしたら必ずこの壁にぶつかる。

 

壁を破る方策として何があるか。答えは極めてはっきりしている。第一にしっかりした道を入れて、マテリアル利用に向けられる構造用材などと一緒に山から伐り出すことであり、第二に構造用材の加工を受け持つ各種の木材工場と連携して、木質燃料の安定供給と熱や電気の出口確保に努力することである。

 

「エネルギー自立」のための地域的な「木材クラスター」の形成については、本書の最終章でまとめて提示することにしたい。

木のルネサンス――林業復権の兆し

木のルネサンス――林業復権の兆し

熊崎 実

エネルギーフォーラム

森林政策の第一人者が、地域における「エネルギー自立」と「木材クラスターの形成」を説く。

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