「住宅での冷暖房・給湯」としての利用が有望
前述した林野庁の木質バイオマス利用状況調査は、ボイラなどを有する事業所を対象にしたもので、住宅などでの利用は対象外になっている。
我が国においても、農村部を中心に相当量の薪が使われているが、信頼できる統計が欠落していて、正確なことは何もわからない。
根本和宣らは、全国の家庭における木質燃焼機器の利用率や、世帯当たりの木質燃料の平均使用量から、家庭での木材消費量は薪で275.5万立方メートル、ペレットで8.7万トンと推定している。丸太材積に換算すれば、両方合わせて300万立方メートルほどになる。
しかし、ドイツやオーストリアでは、住宅の暖房・給湯に大量の木質燃料が使われている。例えば、「木質原料のバランスシート」(連載第1回の図表2参照)によれば、2010年のドイツでは、エネルギー利用に供された木質原料6840万立方メートルのうち、約半分が家庭で消費されていた。また、2015年のエネルギー統計で見ても、木質バイオマスによる熱供給の58%が家庭向けで、産業用の25%、事務所用の11%、熱供給事業の6%を大きく上回っている。
さらにオーストリアの統計書(2015/2016年)によると、化石燃料を含む家庭向け暖房・給湯用の熱消費のうち、木質燃料のシェアは40%に達していた。内訳は、薪・チップ・ブリケット・ペレットによる個別暖房が33%、地域熱供給のバイオマス部分が7%である。これは、都市部を含めた全オーストリアの数字だから、農村部だけをとれば、木質燃料への依存度は、もっと顕著になるだろう。
中山間地の「エネルギー自立」を図るうえで重要に
我が国でも早くから化石燃料の輸入は始まっていたが、優先的に振り向けられたのは軍需や社会インフラ、基幹産業などで、民生用まではなかなか回ってこなかった。そのため1960年頃まで民生部門のエネルギーは、概ね薪と木炭で賄われていた。
だが、その後は、一転して石油やプロパンガスが奥深い山村にまで滔々と流れ込むようになり、木質燃料は徹底的に駆逐されていく。無論、同様の現象は中欧でも起こっていたが、日本ほど徹底したものではなかった。薪を使う伝統を維持しながら、木質焚き燃焼機器の性能を改善し、化石燃料と対抗してきたのである。
日本でも原油価格の高騰が始まると、農村部で薪への回帰が見られるようになり、都市部の住宅でも外国産のファッショナブルな薪ストーブを入れるケースが増えてきた。
しかし、薪の消費量は、ドイツに比べると桁違いに少ない。木質チップを使うストーブやボイラの普及も遅々としている。ドイツの経験に照らせば、住宅部門における冷暖房・給湯用のエネルギー源を化石燃料から木質燃料に転換する余地は、まだまだ残っている。
中山間地の「エネルギー自立」を図るうえで戦略的に重視すべき領域のひとつが、ここにある。