今回は、買取価格の設定に見る「日本型バイオマスFIT」の特異性を説明します。※本連載では、筑波大学名誉教授、日本木質ペレット協会顧問、日本木質バイオマスエネルギー協会顧問である熊崎実氏の著書、『木のルネサンス――林業復権の兆し』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、日本とドイツにおける「木質バイオマス」エネルギー利用の現状と今後の展望を探ります。

「発電コストを反映した規模別格差」がない日本

以下の図表は、現行FITにおけるバイオマス発電の買取価格を示したものだ。

 

[図表]バイオマス発電の買取価格(税抜き)2018~2019年

参考:2017年9月末現在のバイオマスFIT の認定・導入状況    新規認定量:1,275 万kW 792 件    同導入量:116万kW 65 件
参考:2017年9月末現在のバイオマスFITの認定・導入状況
   新規認定量:1,275万kW 792件
   同導入量:116万kW 65件

 

ドイツの買取価格の体系(第3回、図表1参照)と比較して特徴的なのは、

 

①FITを適用するバイオマスプラントに出力規模の上限が設けられておらず、買取価格にも発電コストを反映した規模別格差がつけられていないこと。

 

②森林から下りて来るバイオマス(丸太や林地残材)と、それ以外の一般木材(製材工場の残廃材、輸入丸太・チップなど)で買取価格に差がつけられていること。

 

③買取価格が全般に高いこと。

 

以上の3点である。以下に、若干の説明を加えておく。

 

まず①について。もともとFITという制度は、小規模な再生可能エネルギー発電事業者への支援策だといわれてきた。20年にもわたって固定した価格で電気を買い取るのは、経済政策の常識を超えた優遇策であり、殆どの国では対象を小規模に限定している。

 

また、2014年夏に公表された欧州委員会の「環境エネルギー分野の国家助成に関するガイドライン」は、市場からのシグナルを無視して決められるFITを段階的に廃止し、2020~2030年には、市場経済と一体化させるという方針を打ち出したが、小規模のプラント(バイオマスでは1メガワット以下)については、その例外とした。

 

さらにバイオマス発電の場合は、出力規模の大小によって発電コストが大幅に違ってくる。一律の買取価格を適用すると、小規模では「支援不足」が、大規模では「過剰支援」が生じてしまう。

 

特に5メガワットないしは10メガワット以上になると、コスト低下が著しくなるため、多くの国ではFITから除外しているのだ。

 

日本のバイオマスFITでは、規模による発電コストの落差が最初から軽視されていた。100キロワットのプラントにも5万キロワットのプラントにも、同額の買取価格が適用されていたのである。その後、表にあるように、未利用木材と一般木材のそれぞれで2つのクラスが設けられたが、発電コストを反映した適切な区分とは思えない。

高い買取価格は「切り捨て間伐」減少に貢献したが…

次に、②に関しては、FITの導入が検討されていた頃の時代的な背景が反映されている。補助金で大々的に間伐が実施されたものの、林木が伐倒されたまま木材が出てこない。

 

そうした「切り捨て間伐」材が年に2000万平方メートルも発生しているといわれていたものである。これを山から搬出して発電用燃料とし利用するには、32円くらいの買取価格が必要だ、とのことであった。

 

それが、いつの間にか間伐の切り捨て未利用材だけでなく、一般の主伐材にも適用されるようになり、森林から出てくる丸太や林地残材は、すべて32円扱いになったのである。その後、2メガワット以下の小規模プラントでは、これでも不十分だとして40円に引き上げられた。

 

こうした措置は、小径丸太の売れ行き不振で苦境に喘いでいた国内林業にとって、久々の朗報であったであろう。林内に放置されていた未利用材は、目に見えて減っていき、悪名高い「切り捨て間伐」も影を潜めていった。これは、高い買取価格の功績である。

 

しかしながら、工場残材よりも高い買取価格が設定されたために、カスケード利用の貫徹が難しくなってしまった。つまり、丸太をまず製材工場に入れて製品を取り、その残材を燃料にするのではなく、製材過程をスキップして丸太そのものを全部燃料用チップにしてしまうケースが出てきたのである。

 

この話は次回に続く。

木のルネサンス――林業復権の兆し

木のルネサンス――林業復権の兆し

熊崎 実

エネルギーフォーラム

森林政策の第一人者が、地域における「エネルギー自立」と「木材クラスターの形成」を説く。

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