前回は、「相続放棄」の期間を延長する方法について説明しました。今回は、個人事業主の他界後、遺族はどのようにして被相続人の債務者から債権を回収すればいいのか、実例を交えて見ていきます。

個人事業主の場合、遺族が債権を回収できなくなる!?

<事例4>

個人で茶器の製造・販売を行っていた父が亡くなったあと、その相続人である娘が、取引先に対して売掛金(合計600万円)を支払うよう請求しました。

 

しかし、債務者は一人も請求に応じず、ただ時間だけが過ぎ去っていき、気がつけば3年の年月がたっていました。そのお金を放棄すべきか、回収すべきか、また回収はできるのか? 悩みのつきない日々は続いています。

 

事業主が一人で事業を切り盛りしてきた場合の取引関係は、事業主と取引先の個人的な人間関係に大きく依存している面があります。そのため、事業主が亡くなると、その後の取引が途絶えてしまうことが少なくありません。

 

そうなると取引相手の中には、「もう取引をすることはないのだから、未払い代金はこのまましらばっくれてしまおう」などと不届きな考えを持つ者も現れます。

 

その結果、本事例のように、事業主の遺族がどんなに請求しても、債務者が知らぬそぶりを決め込み、いつまでも債権を回収できないという状況が起こりうるわけですが、所得税法上は、いったんは税金が課されます。そのため、多額の債権を回収できないまま、高額の所得税を課されるという理不尽な事態にもなりかねません。

 

そして税務署は、回収可能な売掛金については、債権放棄を簡単には認めてくれません。むしろ「相手は破産しているというわけではないのですから、訴訟を起こして取り立てたらどうですか」などと債権の取り立てを勧めてくるはずです。

 

したがって、債務者がどんなに請求しても支払ってくれないという状況であっても、あきらめずに、回収の道を探るべきです。

弁護士を上手に活用し、効率よく債権を回収する

たとえば、この事例に関しては、筆者が依頼人からの相談を受けて、内容証明で改めて請求した結果、ほぼすべての債権を回収することに成功しました。

 

実は、売掛金の時効期間は2年間であることから、すでにすべての債権が時効になっていたのですが、時効を主張して支払いを拒絶してきたのは1件だけでした。このように、弁護士からの請求を受けたことにより、債務者がそれまでの態度をがらっと変えて支払いに応じるのはよくあることです。

 

多額の売掛債権を抱えている債権者の中には「弁護士に依頼しても債権を回収できなかったら、むだに弁護士費用を取られることになり、二重の損害を被ることになる」と考え、弁護士への依頼に消極的な人もいます。

 

しかし、そのような債権者の懸念に配慮して、弁護士報酬に関しては柔軟な対応を行っている法律事務所も存在します。

 

弁護士を上手に使うことで、経済的負担を抑えながら、効率よく債権を回収できることもあります。被相続人から相続した債権を債務者が弁済してくれないというケースに直面したときは、法律事務所に率直に要望を伝えて相談してみるとよいでしょう。

 

また、弁護士に依頼した結果、時効を主張されるなどして、売掛債権が回収不能となった場合は、その回収不能部分については税務上、貸倒損失として損金算入できるため、節税効果も期待できます。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『ドロ沼相続の出口』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ドロ沼相続の出口

ドロ沼相続の出口

眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の増税が叫ばれる昨今。ただ、相続で本当に恐ろしく、最も警戒しなければならないのは、相続税よりも、遺産分割時のトラブルです。幸せだった家族が、金銭をめぐって骨肉の争いを繰り広げる…そんな悲劇が今もどこかで起…

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