遺産分割協議時の値段で不動産が売れるとは限らない
<事例5>
死亡した被相続人の財産のうち、相続人の間で、ある不動産を売却して売却代金を分割する合意が成立し、売却を迅速に行うために遺産分割協議で長男の単独名義の登記にしました。
しかしながら、不動産の売却が予定通り進まず、気がつけば、長男の単独名義のまま、時間だけが過ぎてしまいました。売却代金をもらえるはずだったほかの相続人が、「話が違うじゃないか」と弁護士に相談し、もめごとはさらに大きくなってしまいました。
この事例では、遺産分割協議の結果、相続財産に含まれていた不動産を売り、その代金を相続人で分け合う代償分割が行われる予定でした。その前提として、登記を長男の単独名義としたものの、予定していた価格で売ることができなかったために、もめごとになってしまったのです。
そもそも、この土地の固定資産税評価額は2000万円でした。そこで、相続人はみな、最低でもその金額以上で売れるだろうと皮算用していたのです。
しかし、土地には、相続した時点で誰も気づかなかった大きな問題が隠れていました。すなわち、土地は道路に2メートル以上接しておらず、建築基準法上の接道義務を満たしていなかったのです。接道義務を満たしていない土地には建物を新たに建てられません。なぜなら、2メートルにも満たない道路では、たとえば災害時の避難経路の確保や、消防車や救急車などの緊急車両が接近する経路の確保が難しいからです。
当然、そのような土地の市場価値は低く見積もられます。2000万円で売れるなど、とても期待できないことが明らかになったわけです。このように、不動産を対象として遺産分割を行う場合には、遺産分割協議時には想定していなかった問題が見つかることが多々あります。
遺産分割協議書には問題発生時の対処方法も記載
接道義務以外の例としては、水道関連のトラブルも要注意です。たとえば、相続した土地に敷かれている水道管が私有地の下を通っているような場合、その私有地の所有者から工事の承諾を得られないために、水道管が老朽化しても交換できなくなることがあります。
仮にこうしたリスクのある土地を、遺産分割の結果、取得してしまったら大変です。「この土地には問題があったから、分割は無効だ」と主張しても、遺産分割はそう簡単にやり直すことはできません。相続人全員が合意しなければ、まず無理であると思っておいたほうがよいでしょう。
したがって、遺産分割の対象となった不動産に問題が発覚した結果、トラブルとなるのを避けたいのであれば、事前に十分な対策をとっておくことです。具体的には、遺産分割協議書の中に、万が一想定していなかったような事態が生じた場合に、どのように対処するのかについても記載しておくべきです。
また、遺産分割の結果、自分がよく知らない遠隔地にある不動産を譲り受けることになるような場合には、協議書に合意する前に、現地の不動産業者に依頼するなどして、その不動産に問題がないか、用心深く調査しておくことが望ましいでしょう。