まずは単独で住居を相続させる旨の公正証書遺言を作成
<事例7>
夫が死亡し、妻Aさんと長男Bさん、次男Cさんが相続人となり一次相続をしました。夫の残した住居にはBさん、CさんとCさんの妻Dさんとその子であるEが住んでいましたが、Cさんがその後、事故で死亡してしまいました。
Cさんの死亡後、二次相続の件で、BさんとDさん、Eさんとの間に対立が生まれてしまいます。
Bさんは現在Aさんと住んでいる住居を、Aさんから単独相続したいと考えていますが、DさんとEさんもおいそれとは家を出ることに納得ができず、一つ屋根の下でお互い気分の良くない日々を過ごしていました。
夫の死亡時に住居はその妻であるAさんの単独相続となっていました。もし、Aさんが亡くなった場合、このままだとBさんだけでなく、Cさんの子どもであるEさんがその住居について相続権を持つことになります。Eさんは、亡くなっているCさんの相続権を代襲相続することができるからです(なお、配偶者は代襲相続できないので、Cさんの妻であるDさんには相続権はありません)。
BさんはDさん、Eさんと対立していることから、Bさん死亡後の相続の結果として、住居についてEさんと共有状態に陥ることはトラブルのタネを抱えるということを意味するでしょう。それを避けるためには、Bさんが住居を単独相続できる方法を見つける必要があります。
これまでの事例でも何度か触れてきたように、まずは、Aさんに、Bさんに単独で住居を相続させる旨の公正証書遺言を作成してもらうことが基本となります。それに加えて、このケースでは、Eさんに遺留分が認められるので、その主張がなされた場合の対策も考えておく必要があります。
「遺留分の請求を放棄させる」一文を遺言書に盛り込む
思案の末に思いついたアイデアは、Dさん、Eさんが住居に住み続けていたことを、Aさんが両者に対して家を賃貸していたと解釈する、つまりAさんとDさん、Eさんが賃貸借契約を結んでいると法的に構成したうえで、賃料を免除する代わりに遺留分の請求は放棄してもらう――そのような趣旨の一文を遺言書の中に盛り込むことでした。
ちなみに、近隣の賃貸物件を基準にすれば、Dさん、Eさんに請求できる賃料の総額は、ほぼ遺留分の額に相当していました。遺言書の形で、Aさんがここまで自らの意思を明確に示しておけば、Eさんが遺留分を請求してくることは、おそらくないでしょう。
なお、公正証書遺言であれば、住居を単独相続したいというBさんの意向を伝えれば、今述べたのと同様の解決案を盛り込んだ遺言書案を、公証人が提案してくれることもあります。
そのような法的な助言を期待できることも、自筆証書遺言にはない公正証書遺言の大きなメリットの一つと言えるでしょう。