複雑な事情がある場合、トラブルの解決は非常に困難
<事例8>
ガンで死亡した夫と妻Aさんの間には、子どもが二人いました。Aさんと子ども二人は夫が購入したマンションに住んでいます。そのマンションには住宅ローンが残っていましたが、夫の死亡により、団体信用生命保険がおりたため、ローンは消滅します。
また、夫は前妻との間にも子どもが二人いました。マンションの名義をAさんに変更するために、Aさんはその旨を明記した遺産分割協議書を前妻の子二人に送付しましたが、拒否されてしまいました。結果的に、その住居を巡って、前妻の子たちとAさん家族で争うことになってしまったのです。
連載第13回で紹介した事例1と同様、住宅ローンが団信で消滅することを全く想定していなかったために、相続対策がとられておらず、その結果、相続トラブルが生じた例です。しかも、前妻の子どもが相続人だったために、相続に「積年の恨みを相続で晴らす」という、トラブルの解決をこの上なく困難にする厄介な事情までも含まれていることになります。
もちろん、Aさんは前妻の子二人と会ったことはありません。すでに述べたように、このようなケースですんなりと遺産分割協議書にハンコをもらえることはほとんど期待できません。やはり、被相続人である父親が生前に十分な対策をとっておく、すなわち遺言書を用意しておくべきでした。
必要に応じて遺留分を払うことを遺言書で定めておく
遺言書の具体的な内容は、不動産の相続が問題となる同様のケースでこれまでに繰り返してきたものと基本的に変わりません。マンションを妻に単独で相続させる旨を明らかにしておけばよいのです。
もっとも、前妻の子二人には遺留分があるので、それに対する配慮もしておかなければなりません。そこで、遺留分に相当する額の現金を二人に分け与えることを遺言書で明記しておくことが望ましいでしょう。それを怠ってしまうと、後日、遺留分減殺請求の訴訟が起こされるおそれがあります。
想定できるトラブルの芽は前もってすべて摘んでおくことが、「争続」を起こさないためのもっとも効果的な予防策なのです。