前回に引き続き、ドイツのエネルギー供給事業者「E.ON社」の動向を探ります。今回は、電力会社と需要家の関係性が希薄になりつつあるドイツで、E.ON社が取り組む施策について見ていきます。※本連載では、野村総合研究所の著書『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、エネルギーシステムの変革に挑む、欧米大手電力事業者の動向を紹介します。

需要家自身による「太陽光発電設置・消費」の動きが拡大

前回の続きです。これらの家庭向けのサービスに加えて、E.ON社は、EV関連のサービスで、各事業者との提携や共同事業を進めている。

 

例えば、日産自動車と提携し、デンマーク国内で日産自動車のEVを購入したユーザーに対して、E.ON社の電力の充電の費用を3年間無料にするサービスを展開している。また、E.ON社は、欧州を中心に時間貸駐車場事業を展開するEasyPark社と提携している。

 

両社は提携により、EV利用者がEasyParkアプリでEV充電ステーションの場所の確認ができたり、駐車や充電の料金を一括で支払えるサービスを展開している。

 

これらのE.ON社の動きが特徴的なのは、太陽光発電や蓄電システム、EVに代表される分散電源に関連するサービスを積極的に取り込んでいる点にある。

 

先に述べたとおり、ドイツでは、すでにグリッド・パリティに達しているとされており、需要家が自ら太陽光発電を設置して自家消費する動きが急速に拡大してきている。これは、電力会社からの電力に対する依存度が低下し、電力会社と需要家の関係性が希薄になっていることを意味する。

顧客との関係の維持・向上に努めるE.ON社

E.ON社が太陽光発電の自家消費を促進する蓄電システムの販売やEV関連のサービスを展開するのは、電力システムの分散化に関連するサービスを自ら取り込み、希薄化する顧客との関係を維持・向上するためである。

 

従来、電力を供給することによる電気料金を収益としてきたE.ON社が太陽光発電による自家消費を促すことは、自社のビジネスモデルを否定する動きにも見える。特に大手エネルギー供給会社であり、多くの顧客を抱えるE.ON社が、こうしたサービスを展開すれば、需要家の自家消費の動きをますます助長することになるだろう。

 

それでもE.ON社が電力の分散化に関連するサービスを展開するのは、同社が、こうしたエネルギーシステムの変化が不可避のものと見ており、それに乗り遅れまいと自ら蓄電システムやEVなどの分散電源に関連するサービスを取り込もうとしているためといえる。

 

分散電源を取り込む動きは、同社のベンチャー企業に対する出資や提携の動きからも見て取れる。以下の図表は、E.ON社が近年に買収・出資をしてきた分散電源サービス関連の企業を示す。

 

[図表]E.ON社の分散電源サービス関連の主な出資先

出所)E.ON社公開資料などをもとに野村総合研究所作成
出所)E.ON社公開資料などをもとに野村総合研究所作成

 

Opower社は、エネルギー供給会社向けにカスタマー・エンゲージメントや省エネルギーに関するソフトウェアを提供する会社である。同社は、エネルギー供給会社の顧客向けに、ウェブサイトや携帯電話を通じて、電力・ガスの利用状況や料金に関する情報提供を行うシステムを構築している。

 

同社のシステムが特徴的なのは、スマートメーターから得られるデータなどを分析して、同様の需要家などと比較しながら、顧客にとって最適な媒体・タイミングなどで省エネルギーに関する情報提供を行う点である。

 

現在、Pacific Gas & Electric社やExelon社など、全世界で100社を超える電力・ガス事業者と提携しており、米国では電力会社上位20社のうち、約75%が同社サービスを利用している。

 

ここまで見てきたように、E.ON社は、太陽光発電・蓄電池システムの販売や「電力口座」を活用した新しい電力サービスを開始している。また、EV関連事業者をはじめとした事業者と連携し、ときには買収・出資も行いながら、従来のエネルギー供給から離れて、分散電源に関連するソリューションを自社に取り込んでいる。

 

これにより、同社は、再生可能エネルギーの普及に伴うエネルギーシステムの分散化への対応を図っているといえるだろう。

この連載は、書籍『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(㈱エネルギーフォーラム)からの転載です。

エネルギー業界の破壊的イノベーション

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野村総合研究所

エネルギーフォーラム

「インフラ民主化時代」を制するのは誰か? 日本を代表するシンクタンクが業界の動向を大胆展望。

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