前回に引き続き、英国のエネルギー供給事業者「Centrica社」の動向を探ります。今回は、「Centrica社」の特徴的な取り組みを詳しく見ていきましょう。※本連載では、野村総合研究所の著書『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、エネルギーシステムの変革に挑む、欧米大手電力事業者の動向を紹介します。

取り組みとして特徴的な「コネクテッド・ホーム」事業

前回の続きである。

 

一方で、Centrica社の取り組みで特徴的なのは、別の注力事業である「コネクテッド・ホーム」である。コネクテッド・ホームに関する事業を通じて、家庭部門の顧客に対してエネルギー領域から派生したサービスを提供する取り組みは、他社と一線を画すといってよいだろう。

 

Centrica社は、Hiveブランドでコネクテッド・ホームに関する事業を英国とアイルランド、北米で展開している。

 

コネクテッド・ホームのサービスは、顧客がアプリを通じて、Centrica社がHiveブランドで展開する家電や照明、空調など各種設備の制御・管理を一元的に行うことができるサービスである(以下の図表1参照)。

 

[図表1]Centrica社のコネクテッド・ホームでの提供サービス

出所)Centrica 社公開資料などをもとに野村総合研究所作成
出所)Centrica 社公開資料などをもとに野村総合研究所作成

 

例えば、顧客は、アプリを操作することで、家電や照明のオン・オフ制御を行ったり、暖房・給湯器の制御を行うことができる。Amazon社のスマート・スピーカーであるAmazon Echoとも連携しており、音声により各種制御を行うことも可能である。

 

また、室内のディスプレイを通じて電力使用量や電気料金の状況が閲覧できたり、住宅の扉や窓の開閉に応じて住居者の携帯電話にアラートを出したりする機能もある。

 

Centrica社は、ハブ(中核)機器を介して制御できるHiveブランドの家電を順次拡大しており、2016年には、遠隔でオン・オフ制御が可能なコンセントプラグ「Hive Active Plug」や、窓・扉の開閉センサー、モーション・センサー、遠隔でオン・オフ制御や調光が可能な「Hive Active Light」をリリースしている。2017年には、遠隔で水漏れ検知の通知がくるようなサービスなどの展開も検討している。

 

コネクテッド・ホームの顧客数は拡大しており、2016年末時点でコネクテッド・ホームのハブ機器の累積導入数は約53万に達している。特に直近は、2016年下期の導入機器数は同年上期の倍以上となるなど加速度的に伸びている。

 

また、Hiveブランド製品の2016年の販売点数は45万にも上った。Centrica社は、今後も新製品を投入するなどしてコネクテッド・ホーム事業を拡大する予定で、2020年までに5億ポンドもの投資を行うとしている。

 

Centrica社は、コネクテッド・ホーム事業の拡大のために、買収・提携も行っており、2015年3月にはAlertMe社を買収している。

 

同社は、英国のケンブリッジに本社を置く、2006年に設立されたベンチャー企業で、アプリを通じて家電などを制御可能にする「Honeycomb」と呼ばれるプラットフォームを提供する事業者である。

 

これによりCentrica社は、家電などを制御するプラットフォームを獲得するとともに、ソフトウェア開発やデータ解析の体制を整えることになり、コネクテッド・ホームに関する事業展開を一気に加速させた。

 

また、2016年には、コネクテッド・ホームでの展開サービスに水漏れ検知・通知サービスを加えることを見据えて、水漏れ検知に関する技術を持つベンチャーだったFlowgem社を買収している。

顧客との関係をより強固にし、他事業者への離脱を防止

ここまで見てきたように、Centrica社は、分散電源に関する取り組みに加えて、ICT技術を活用しながら、コネクテッド・ホームに関する領域を中心に、電力・ガス供給およびそれ以外のエネルギーサービスをワンストップで提供しているのが特徴的である。

 

Centrica社がこうしたエネルギーサービスをワンストップで提供しているのは、従来のエネルギー供給以外のサービスを提供し、顧客との関係をより強固なものとすることで、顧客の他事業者への離脱を防止するためである。

 

事実、Centrica社もコネクテッド・ホーム事業を「重要な差別化要素」と位置付けており、前述のとおり2020年までに5億ポンドを投資する計画を立てるなど、長期的に同事業を拡大していく予定である。

 

[図表2]Direct Energy社の概要(2016年) 

出所)Direct Energy 社公開資料などをもとに野村総合研究所作成
出所)Direct Energy 社公開資料などをもとに野村総合研究所作成

この連載は、書籍『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(㈱エネルギーフォーラム)からの転載です。

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「インフラ民主化時代」を制するのは誰か? 日本を代表するシンクタンクが業界の動向を大胆展望。

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