今回は、欧米の「エネルギー供給事業者(電力・ガス会社)」の取り組みを紹介します。※本連載では、野村総合研究所の著書『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、エネルギーシステムの変革に挑む、欧米大手電力事業者の動向を紹介します。

自由化が進展し、顧客獲得競争も激しさを増す

欧米を中心に、エネルギーシステムの分散化とエネルギーサービスのワンストップ化が進展しているが、国や地域別に見てみると、その進展度合いにはばらつきがある。結果として、そこでエネルギー供給事業を展開する事業者の取り組み状況も、国や地域によって差異が見られる。

 

図表は、エネルギーシステムの分散化とエネルギーサービスのワンストップ化が進む欧米の各国・地域を、再生可能エネルギーの導入目標と、家庭部門のスイッチング率で分類したものである。なお、ここでスイッチング率とは、従来の電力会社から他の事業者へ切り替えた顧客数を指す。

 

以下の図表では、各国・地域で事業展開する大手エネルギー供給事業者の取り組みも合わせて整理しているが、ここから市場の特徴とエネルギー事業者の取り組みに関する傾向が見て取れる。

 

すなわち、再生可能エネルギーの導入が進み、エネルギーシステムの分散化が進展しつつある市場では、エネルギー供給事業者が分散電源関連サービスを取り込む動きが活発である一方で、自由化が進展し、エネルギー供給事業者間の顧客獲得競争が激しくなっている市場では、エネルギーサービスのワンストップ化の動きが見られる点である。

 

[図表]国・地域別の大手エネルギー供給事業者の主な動向

注)スイッチング率:従来の電力会社から他の事業者へ切り替えた家庭需要家の比率(2014年)

出所)欧州エネルギー規制機関(ACER)・欧州エネルギー規制者評議会(CEER)公表資料などより、野村総合研究所作成
注)スイッチング率:従来の電力会社から他の事業者へ切り替えた家庭需要家の比率(2014年)
出所)欧州エネルギー規制機関(ACER)・欧州エネルギー規制者評議会(CEER)公表資料などより、野村総合研究所作成

 

ドイツ、米国のニューヨーク州およびカリフォルニア州は、2030年までに再生可能エネルギーの占める比率を50%近くにまで高めるという積極的な目標を掲げている。

 

結果として、同市場で展開するエネルギー供給事業者にも、エネルギーシステムの分散化に対応するための動きが多く見られる。

 

例えば、ドイツの大手エネルギー供給事業者であるE.ON社は、太陽光発電と蓄電池をセットで販売し、家庭の自家消費を促すサービスを展開したり、EV事業者との連携を進めたりしている。また、ニューヨーク州では、配電会社のCon Edison社がDERMSを活用した事業拡大の検討や、家庭用太陽光と蓄電池を活用したVPPの実証試験を進めている。

ベンチャー企業等と連携するカリフォルニア州

再生可能エネルギーの導入に積極的なカリフォルニア州でも同様に、PG&E社が系統用蓄電システムの導入や、EVの個別計測に関する実証を行っている。

 

ただし、カリフォルニア州は非小売自由化州であり、PG&E社をはじめとするIOUは州政府の規制を強く受けることから、IOUは、ベンチャー企業など他の事業者と連携しながらエネルギーシステムの分散化への対応を進めている。

 

例えば、PG&E社が行っているEVの個別計測に関する実証は、カリフォルニア州でEV充電ステーションのサービスを展開するeMotor Werks社などのベンチャー企業と連携しながら進めている。

 

カリフォルニア州に関してもう1点注目すべきは、同州内で事業を行うエネルギー関連ベンチャーの多くに、大手エネルギー供給事業者の資本が入っていることである。

 

米国国内のエネルギー供給事業者であるConstellation社以外にも、世界的にエネルギー供給事業を展開するイタリアのEnel社やフランスのEngie社も、カリフォルニア州のベンチャー企業に対して積極的に買収・出資を行っている。

 

特にカリフォルニア州では、エネルギーシステムの分散化を背景に、先進ソリューションを有するベンチャー企業が多く、大手エネルギー供給事業者は、これらの企業の買収や出資、提携などを通じて、新規ソリューションを取り込む動きを加速している。

 

一方で英国は、自由化が進展し、エネルギー供給事業者間の顧客獲得競争が激しいのが市場の特徴である。2014年のスイッチング率は11.1%で、自由化が進むEU内でも高い水準にある。

 

結果として、顧客囲い込みの手段として「エネルギーサービスのワンストップ化」の動きが見られ、エネルギー事業者は、従来のエネルギー供給事業だけではなく、他のサービスも組み合わせることで顧客が享受するメリットの最大化を図っている。

 

例えば、英国でBritish Gasブランドでエネルギー供給事業を展開するCentrica社は、エネルギー供給のみならず、遠隔での家電制御や家庭のセキュリティ管理を行う「コネクテッド・ホーム事業」を展開している。

 

エネルギーサービスのワンストップ化の動きは、自由化がなされているその他の国・地域でも見られ、米国でも大手エネルギー供給事業者のConstellation社やDirect Energy社(親会社がCentrica社)が配管工事などエネルギー供給に関連するサービスを展開している。

 

以降では、エネルギー業界の変革に対して、それぞれの国・地域で事業を展開するエネルギー供給事業者がどのように対応しているか、より具体的に見ていきたい。

この連載は、書籍『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(㈱エネルギーフォーラム)からの転載です。

エネルギー業界の破壊的イノベーション

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「インフラ民主化時代」を制するのは誰か? 日本を代表するシンクタンクが業界の動向を大胆展望。

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