老後の資金管理や資産承継の悩みを解決する「信託」のしくみ

今回は、老後の資金管理や資産承継に役立つ「信託」のしくみを見ていきます。※本連載は、税理士・菅野真美氏の著書、『老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで「信託」の基本と使い方がわかる本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋し、「信託」のメリットと使い方をご紹介します。

自分の死後も妻の生活資金の確保が可能に

長い老後の生活を支援するための方法には、成年後見制度や、資産承継の方法としての生前贈与や遺言などがあります。これらの制度は使い勝手の良い面があるから利用が広がっているのですが、逆に使い勝手の悪い面もあります。

 

たとえば、成年後見は判断能力が衰えた人のための制度で身体能力が衰えた人は利用できません。成年後見人がつけば、たとえ本人(成年被後見人)の希望であったとしても財産の処分は制限されます。また生前贈与をした場合は、一度財産を渡せば、二度と戻ることはありません。遺言の場合、自分の相続のときの財産の渡し先は指定できますが、財産を取得した相続人が死亡したときのその資産の次の渡し先まで指定することはできません。

 

これらの使い勝手の悪い部分を解決する方法の1つとして、信託というものがあります。

 

信託というのは、自分が持っている資産を自分自身で運用することが難しい場合や、自分自身で管理・運用するよりも他人にお願いして管理・運用してもらうほうがたくさん利益が出るような場合等に、自分の財産を信頼できる人に渡して管理・運用してもらい、その財産から生ずる利益は自分が受け取ってほしい人に渡してもらうという便利なしくみです。

 

たとえば、自分の死後、病弱な妻が生活するために必要なお金の支援や管理に不安がある場合、遺言で、信頼できる人に自分のお金を信託し、その人が、責任を持って、1人で生活をしている病弱な妻の生活や医療介護に必要なお金を支払えるようなことができるようになります。

 

[図表1]信託を使って自分の死後、妻に生活資金を渡し続けることができる

委託者・受託者・受益者で、信託財産を管理・運用

信託の主要な登場人物は委託者、受託者、受益者の3人です。

 

委託者は、信託というしくみのプランナー兼スポンサーです。料理にたとえるならば献立を考えて食材を料理人に渡す人。

 

受託者は、委託者から頼まれた財産を受け取ってプラン通りに財産の管理・運用に汗を流す人です。営利を目的としていない場合の受託者は個人でもなれます。料理にたとえるなら献立に従って料理を作る人。

 

受益者は、信託された財産の果実をもらう人です。料理にたとえるならば、料理人の作った料理を粛々と食べる人です。

 

なお、委託者から受託者に運用をゆだねられた財産の名義は受託者に移り、受託者は汗を流して肥え太らせますが、この財産のことを信託財産といいます。この財産こそが信託のキモですから、大切に守られます。

 

信託を作る方法としては、契約による方法、遺言による方法、自分で自分の財産に信託を設定する方法(自己信託)の3つがあります。

 

契約による方法──委託者と受託者が約束して信託が設定されます。一般的には契約は文書化されますが、口頭による信託契約も認められます。

 

遺言による方法──委託者が遺言で信託を設定し、委託者の死亡により信託の効力が生じます。

 

自分で自分の財産に信託を設定する方法──これを「自己信託」といいますが、この場合は、公正証書等、決められた形式で文書化されることが必要です。

 

信託において汗をかくのは受託者ですが、信託財産や信託財産から生ずる収益は受益者のものです。もし、受託者がいいかげんな人で信託財産を自分勝手に使ったら、もらえるはずの利益を受け取ることができなくなって困ります。そこで、受益者をサポートする信託の脇役として、信託監督人、信託代理人、指図権者がいます。

 

信託監督人は、受益者のために受託者が仕事しているかを監督する人です。

 

信託代理人は、受益者の代わりに受益者の権限を行使する人です。

 

指図権者は、受託者に対し、受益者のために管理処分を指示する人です。

 

信託は、法人のように無期限に存在するものではなく、期間限定で財産を預かり受益者のために管理・運用するしくみです。したがって、契約等において、必ず信託期間が定められています。

 

信託期間が終了すると、契約等で定められた人に残余財産が分配されることになります。契約等に定められた人として、帰属権利者と残余財産受益者がいます。

 

帰属権利者は、信託期間中は受益者としての権利を全く有しないが、信託終了時の財産を受け取ることができる人です。

 

残余財産受益者は、信託期間中は受益者としての権利を有し、かつ、信託終了時の財産を受け取ることができる人です。

判断能力はあるが、身体がついていかない時も利用可能

信託においては、信託財産から生ずる利益を最初に受ける人(第一受益者)を決めるだけでなく、第一受益者が亡くなった場合、次に、信託財産から生ずる利益を受ける人(第二受益者)を定めることができます。このような信託のことを「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」といいます。

 

それでは信託はどのように使われるのでしょうか?

 

判断能力が衰えた後、金融機関と取引をする必要に迫られることもあります。この場合、金融機関側がトラブルを事前に避けるために成年後見人の選任をお願いしてくることがあります。

 

成年後見人は、後見を受ける人の生活の支援のために財産の毀損につながるような行為をすることが認められません。ですから、たとえば賃貸不動産業を営んでいる人が成年被後見人となった場合、新たな賃貸用不動産の取得費用や大規模修繕のための借入れができなくなって、事業の継続が難しくなる場合もあります。

 

このようなリスクを避けるためには、元気なうちに信託を設定して、賃貸用不動産を信頼できる人に信託します。そして、受託者が信託財産となった賃貸用不動産を管理・運営します。

 

こうしておけば、店子に家賃の不払いがあったり、他の店子との間でトラブルが生じた場合も受託者が処理できます。大規模修繕のための資金を借入れで賄う必要が生じた場合も、受託者が金融機関と折衝できます。本人(委託者)が、資金の借入時に成年被後見人となった場合でも、借入れの契約自体は、受託者が行うので特に問題はありません。

 

さらに、成年後見人は本人(成年被後見人)の判断能力が不十分になった場合に選任されるものであって、頭はしっかりしているけれど体がついていけないような場合は選任されません。しかし、身体がついていけないから今までのように財産運用をすることができなくて困っている人もいます。そのような人についても信託というしくみを利用することにより、今までと同じように財産を運用して利益を受け取ることができるのです。

 

相続以降の財産の行き先を決めることができる

贈与は、誰か(贈与者)が持っている財産を別の誰か(受贈者)に「あげるよ」といって渡し、受贈者が「ありがとう」といって受け取り自分の持ち物とする契約です。自分の持ち物となった財産ですから、受贈者の判断で手元に置くことはもちろん、運用して利益を稼がせることもできれば、誰かに売却して代金を受け取ることもできます。ただし、いったん財産を渡した後に、「なかったことにしてくれ」と贈与者が受贈者に泣きついても、「はい、わかりました」といって返してくれることはまずありません。

 

しかし、信託の場合は事前に期間を決めておくと財産を取り戻すことができるのです。

 

たとえば、「10年間私の財産を信託して、利益はあなたに渡しますが、10年たったら返してもらいます」という約束もできます。また、「私は身体が思うように動かないから、財産を信託してそこから生ずる利益はあなたにあげます。その代わり、私の生活の面倒はきちんとみてください。もし、あなたが私の生活の面倒をみてくれないならば、別の人に信託から生ずる利益を渡して、その人に面倒をみてもらいます」というように設計できます。

 

 

信託するのは財産であり、その財産から生ずる利益というのはお金で換算できるものがほとんどですが、実は、目に見えるお金以外のチカラを持つ財産があります。それは、株式です。そのチカラとは株主総会の議決権です。信託すると株式の名義は受託者になり株主総会の議決権は受託者が有します。受託者は自分の意思で議決権を行使することもできますし、信託で議決権指図権を別の人に与えてその人の意向で議決権を行使することもできます。

 

たとえば、会社のオーナーが「後継者に株式を贈与したいが、まだ経営者としての経験を積んでいないので自分がサポートしたい」と考えることもあります。この場合、株式を信託し、受益者を後継者としても、株主総会の議決権は自分(オーナー)の指図に従う契約にすれば、株式の財産的権利を受益者に渡した後も会社の運営に関わることができます。

 

 

遺言の場合は、自分の相続に際して、自分の財産を誰に渡すかを決めることができますが、財産をもらった人に相続が発生した場合、その財産を誰に渡すかまで決めることはできません。その人の相続人か、その人が遺言で指定した人が受け取るかのいずれかとなり、今財産を持っている人の意向通りに財産が渡されていくとは限りません。

 

ところが、信託を利用することにより、自分の相続だけでなく、“次の次”や“次の次の次”というように、その財産から利益を受ける人を指定することができます。

 

たとえば、子供がいない夫婦の例で考えてみます。この夫婦の両親はすでに他界していて、夫は一人っ子、妻には素行に問題のある弟がいるとしましょう。この場合に夫に相続が発生すると、夫の財産は妻が相続します。しかし、妻に相続が発生したときに、妻の財産は妻の弟が相続することになってしまい、それが納得できません。


このような悩みは、遺言では解決できません。しかし、信託を利用することにより、自分の財産の受益者を妻とし、妻が死亡した場合は、その財産は妻の弟以外の別の人に渡すと決めると、弟には財産は渡らないことになります。

 

このように、老後の生活や資産承継の不安で、成年後見や贈与、遺言で解決できない部分について、信託を利用することにより解決できるようになります。

 

[図表2]妻の相続時に自分の遺産が妻の弟に渡るのがイヤだ

(注)⊗ は故人を示す
(注)⊗ は故人を示す

 

<ポイント>

●成年後見、生前贈与、遺贈の使い勝手の悪い部分は、信託というしくみを利用することにより解決できる

●信託は、財産を別の人に管理・運用してもらい、利益を決めた人に渡す便利なしくみ

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税理士

税理士・CFP認定者。関西学院大学法学部政治学科卒業後、平成2年税理士試験合格。平成18年まで新日本有限責任監査法人大阪事務所並びに関係会社において、監査並びに税務コンサルティング業務に従事。その後、日本租税総合研究所 主任研究員を経て、税理士事務所開業。現在、東京税理士会芝支部。信託法学会会員 成年後見法学会会員でもある。
主な著書に、『税理士のために国外転出時課税と国際相続について考えてみました』『申告なし・税金なしの贈与使いこなしQ&A』『顧問税理士なら答えて! 個人の国際課税Q&A』<共著>(以上、中央経済社)、『実例にみる信託の法務・税務と契約書式』<共著>(日本加除出版)、雑誌掲載として、「世界の果てまでついてくるZEI」(税務弘報)などがある。

著者紹介

連載老後の備えから資産承継まで~「信託」の基本と使い方

老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで 「信託」の基本と使い方がわかる本

老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで 「信託」の基本と使い方がわかる本

菅野 真美

日本実業出版社

信託のメリットと使い方がよくわかります。成年後見、遺言、贈与の使い勝手の悪い部分を解決して、あなたの“想い”を叶えましょう。 <目次1> 第1章 老後の生活や資産承継のツールと課題を学ぼう(「老い」を自覚…

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