生前に受託者の了承を取っておくことが重要
信託は、自分の財産を誰か(受託者)に渡して、自分の希望にそって管理・運用してもらい、利益を誰か(受益者)に渡してもらうしくみです。
このしくみは、遺言で作ることができます(信託法3②)。遺言で、信託してほしい旨を書き残しておくと、遺言と同様に、遺言者の死亡により効力が発生することになります。遺言で作った信託を「遺言信託」といいます。
「信託してほしい」旨の記載がある遺言が発見されて突然、受託者として指名され、いきなり信託の仕事をしろといわれると誰でもびっくりするでしょう。そこで、遺言の執行人や相続人等利害関係人は、受託者となるべき人に「あなた、受託者を引き受けてもらえますか。○月×日までに回答してください」ということができます(信託法5①)。もし、回答がない場合は受託者を引き受けなかったとみなされます(信託法5②)。しかし、受託者がいなかったら信託は機能しません。そこで裁判所に「受託者を選任してください」と関係者が申し立てることができます(信託法6①)。
もちろん、自分の死後、受託者の問題でもめて信託が機能しなくなることは望ましいことではありません。ですから、遺言で信託を設定する場合は、生前に受託者となる人に信託の話をして了承をとっておくべきと思います。
遺言信託を作る場合に決めておくべき必須項目とは?
それでは、遺言で信託を設定する場合はどのようなことを書き入れるのでしょうか。
一般的な遺言の場合は、「私が死んだら、私の全財産は誰にあげる」とか、「Aという財産は太郎、Bという財産は花子」というように、「誰に、何をあげる」ということのみが盛り込まれます。財産をもらった後のことはもらった人の自由裁量に任せているからです。
しかし、信託の場合は、「財産を自分の希望に従って使ってほしいから、財産を管理してくれる受託者に渡して、その人の責任で管理・運用してもらい、利益を誰かに渡してくれ」というしくみとなっています。信託では、自分の死後の財産の管理や運用、利益の渡し方など細かく書き添える必要があるのです。ですから、遺言で信託を作る場合、一般的な遺言と比較して長文となります。想定されるリスクを避けながら委託者のニーズに細やかに対応すればするほど、ボリュームも大きくなる傾向があります。
遺言で信託を作る場合、必須項目としては、以下のようなものがあります。
●何のために信託を設定するのか(目的)
●誰が委託者か(遺言者)
●誰が受託者か
●誰が受益者か
●信託財産は何か
●信託期間はいつまでか
●信託期間中、財産はどのように管理するか
●信託期間中、財産の状況はどのように報告するか
●財産はどのように受益者に給付するか
●信託が終了したら財産は誰に渡すのか
●受託者の報酬はいくらか
遺言信託の具体例
ここでは最低限、必要と思われる項目に絞ったシンプルな遺言信託例を記載します。なお、実際のものには多様な事象を想定して対応することから、より多くの項目が盛り込まれます。
<例>山田太郎の希望
●自分の死後、病気がちな妻花子の生活を支援するため、長女の愛子に自分の預金から毎月、生活費として必要なお金を現金で手渡し、銀行振り込み等もしてほしい
●長男の一郎はお金が必要なときだけやってきて面倒をみない
●花子が死亡したときに残った財産は、面倒をみた愛子が残高の4分の3、長男の一郎には4分の1を渡してほしい
そこで、この太郎の希望を実現するために遺言信託を設定することにしました。
遺言者山田太郎は、遺言者の所有する別紙「信託財産目録」(省略)記載の財産を、別紙「遺言信託」記載のとおり信託しました。
[図表1]妻の生活支援のための遺言信託スキーム
[図表2]遺言信託