「健康寿命」以降、1人で生活するのは難しい
日本は少子高齢化社会といわれ、厚生労働省は、平成26年の平均寿命は男性が80.50年、女性は86.83年と公表しました。世界的にみてもトップクラスの平均寿命です。しかし、この年齢に達するまで元気に不自由なく生活できているのでしょうか。
実は、平均寿命と別の指標として健康寿命というものがあります。これは健康上の問題で日常生活が制限されることのない期間のことをいいます。健康寿命は、介護サービスの必要のない期間とも考えられますが、厚生労働省によると平成25年の健康寿命は、男性が71.19歳、女性が74.21歳です。
平均寿命と健康寿命の差は、男性で約9年、女性で約12年あります。この期間は、病気で医療機関のお世話になったり、介護サービスの支援を受けて生活を営むことになったりする人が多くなります。足腰を動かすのが厳しくなって、買い物に出かけたり生活費を銀行で引き出すことが難しくなる人もいらっしゃれば、どこで買い物をすればいいかわからなくなる人もいらっしゃいます。
高齢になると物忘れが多くなります。物忘れは、一般的には、体験したことの一部、たとえば、昨夜の夕飯で何を食べたかを忘れることです。本人が忘れていることを自覚していて、「何を食べたかな?」と一生懸命、記憶の糸を手繰ろうと努力します。このような物忘れは病気ではありません。
物忘れと同様の現象がおこるものとして認知症があります。こちらは体験したことの全部、たとえば、昨夜、夕飯を食べたこと自体を忘れるというようなものです。本人に忘れているという自覚がまったくなく、「誰も作ってくれない」とか、「誰かが勝手に食べてしまった」というように他人のせいにする傾向にあります。認知症は、病気の一種で、脳の細胞が死ぬこと等から記憶や判断が難しくなり、社会生活に支障がでる状態が6か月以上継続することをいいます。たとえ身体が健康であったとしても認知症を発症すると1人で生活することが難しくなります。
収入が限られる「老後」は、お金の管理が一層重要に
昔の日本においては3世代が同居して、老後の父母の面倒は子供やその配偶者、孫たちがみることが一般的でした。しかし、今の日本は核家族化が進展し、父母と住んで面倒をみる子供や孫が減少しています。“おひとり様世帯”も増えています。平成27年版高齢社会白書によると、昭和55年(1980年)には一人暮らしの高齢者(65歳以上)の世帯は男性が約19万人、女性が約69万人でしたが、平成22年(2010年)では男性が約139万人、女性が約341万人と急増しています。
若いときは一人暮らしの気楽な面が評価されますが、高齢になると一人で生活すること自体が難しくなるのです。
そこで、老後の生活のサポートが必要となり、そのために介護保険制度が導入され、生活の支援を利用料の一部負担により賄うしくみになっています。介護施設や高齢者用の住宅も増加しています。また、地方自治体も高齢者の生活の支援として様々なメニューを提供しています。
人にとって一番大切なものは自分の命です。では、「二番目に大切なものは何か」と尋ねられると、「家族」と答える人も多いのですが、優先順位の上位に必ず入ってくるものがお金です。お金は生活するうえで絶対に不可欠な血液のようなものであって、お金が滞れば、命があっても生活の継続は難しくなります。
無尽蔵にお金が湧いてくるものならば管理する必要はありませんが、老後は入金が年金等に限られ、支出は生活費や不測の医療費、自宅のリフォーム、介護施設の入居金などもあり、蓄えたお金からの取り崩しも必須となり、お金の管理が、働いているときよりもなお一層重要となります。
認知症等になると自分で契約書を理解して署名押印し、入出金の管理をしながら生活を維持していくことが難しくなります。このような人のための支援の制度として、「成年後見制度」というものがあります。成年後見には本人のためにお金の管理をしたり、本人に代わって、介護施設入所の契約等を行ったりする「法定後見制度」と、まだ自分で判断できる時期に、将来、判断できなくなったときに自分の代わりにお金の管理や契約の締結をお願いしたい後見人を自分で決めておく「任意後見制度」があります。2000年にスタートした制度ですが、徐々に浸透してきています。
なお、成年後見制度のなお一層の利用促進を図るために平成28年4月に、成年後見制度の利用の促進に関する法律(成年後見促進法)、民法、家事事件手続法のうち成年後見に関する一部改正が国会で可決・成立しました。
成年後見促進法は、国も本腰をいれて成年後見制度を促進するために内閣総理大臣を会長とする成年後見制度利用促進会議を設け、地域社会においても市民後見人の担い手の養成や成年後見実施機関への支援を行うものとされます。
相続争いは、大金持ちに限った話ではない!?
雑誌などのメディアで相続税の増税が大変だという記事をしばしばみかけます。なるほど、平成27年以後の相続については相続税の計算上、控除できる金額が大幅に下がりました。平成25年は亡くなる人のうち相続税の申告書を提出する人の割合は国税庁の統計情報等に基づいて計算すると4.3%ですが、平成27年には倍増するのではないかともいわれています。たしかに、相続における最大のコストは相続税で、相続税の節税は重要なテーマですが、相続税の節税は相続の主目的ではありません。
相続による財産分割のもめごとは増加傾向にあります。相続争いが親族間で解決できない場合は、まず、家庭裁判所に持ち込まれますが、平成26年度の司法統計年報(家事事件編)によると、遺産分割事件(家事審判・調停事件)は昭和60年には6,176件でしたが、平成26年は15,261件であり、約30年で2.5倍に増加しています。
また、相続争いは、いわゆる大金持ちに限られると思われがちですが、実際に裁判に持ち込まれた遺産分割事件で調停が成立等したもののうち遺産の総額が1,000万円以下のものは、平成26年においては31%に及びます。つまり、誰でも相続のトラブルに巻き込まれる可能性があるわけです。
相続は一生かけて築いた財産の承継という人生最後の大イベントです。残された親族が泥沼の相続争いを行うことを望む人はいません。円満、円滑な承継が残された相続人の話し合いにより実現できるなら理想的ですが、世の中、いつもすんなり話し合いで決まるとは限りません。自分で築いた財産なのですから自分が決めた人に円満、円滑な方法で承継することがベストではないでしょうか。その実現のツールとして、遺言というものがあります。
<ポイント>
●寿命は延びても、最晩年に一人暮らしの難しい期間が10年くらいある
●お金の管理や契約締結が難しければ、成年後見制度でサポートできる
●相続税は資産承継の最大のコスト。希望に沿った円満・円滑な資産の承継のために、遺言という制度がある