将来キャッシュフローの「値段」はどう決まるのか?

今回は、将来キャッシュフローの「値段」はどう決まるのかを見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

投資対象に期待する収益率によって「割引率」が決まる

将来キャッシュフローの「値段」、つまり割引現在価値は、どうやって計算すればよいのでしょうか? 割引現在価値という難しそうな名前が付いてはいるものの、計算自体はたいして難しくありません。スーパーでは、賞味期限が切れかけている食材に割引シールが貼られていきますが、あれと同じように、将来キャッシュフローをもとの金額から割り引いて考えるというだけの話です。スーパーの品物にどの割引シール(10%、30%、50%・・・)を貼るかを決めているのは、恐らく店長さんでしょう。では、ファイナンス理論の世界で、将来キャッシュフローの割引率を決めているのは誰なのでしょうか? 

 

答えを言ってしまうと、誰か特定の人が決めているわけではありません。割引率は、将来キャッシュフローがどれくらい確実に手に入るものなのかによって決まってきます。といってもピンと来ないかもしれませんが、以降の説明を読んでいただけるとイメージが湧くと思います。


将来キャッシュフローの割引現在価値を計算するためには、割引率を決めなくてはなりません。そして、割引率の具体的な計算方法は、投資対象によって変わってきます。けれども、その根底にある発想は全て同じで、投資家がその投資対象に期待する収益率によって、割引率が決まってくると考えます。

 

収益率とは、その投資によって儲かった金額を、もともと投資した金額で割ったものです。例えば、100円を投資して、1年後にそのお金が108円に増えたら、1年間の収益率は8%(8円÷100円)になります。もちろん、投資を始める段階では、実際にいくら儲かるかはわかりません。けれども、投資家たちは、この投資からはこれくらい儲かるはずだという予想(期待)を立てて投資を行います。このように、投資家がその投資に対して期待している収益率のことを、期待収益率といいます。

 

プライシング理論では、この期待収益率を割引率として使います。つまり、

 

割引率=期待収益率(投資家がその投資対象に期待している収益率)

 

ということです。ただし、期待収益率という言葉にはファイナンス理論独特の意味があるので、注意しなければなりません。“投資家の期待収益率”という言葉を聞くと、例えば株をやっている個人投資家の「この株で去年15%も損したから、今年は20%くらい上昇してくれないと割に合わないぜ!」みたいな個人的願望を思い浮かべるかもしれませんが、そういうものとは全く違います。

将来キャッシュフローの不確実性の大きさ=「リスク」

世の中には様々な投資対象があり、ハイリスク・ハイリターンなものもあれば、ローリスク・ローリターンなものもあります。例えば、値動きが激しい株式への投資は、大損をする可能性もありますが、株価が上昇したときは大きな利益が得られるので、ハイリスク・ハイリターンの投資と言えます。一方、銀行預金は、預けた金額が勝手に増えたり減ったりはしないためローリスクですが、預金金利の分しか儲からないのでローリターンでもあります。

 

一般に、投資家は、ハイリスクな投資にはハイリターンを求める一方、ローリスクな投資はローリターンでも良いと考えます。これは、考えてみれば当たり前ですね。リスクが高い投資ほど、高い見返りを求めるということです。

 

今まで「リスク」という言葉が何度か出てきましたが、日常的な用語としての「リスク」という言葉と、ファイナンス理論における「リスク」は意味が異なります。ファイナンス理論では、投資対象を将来キャッシュフローの系列に置き換えて考えるという話をしましたが、将来キャッシュフローは不確実性を持っています。

 

前回の連載の牛の例で言うと、3年目に病気にかかって死んでしまうかもしれません。そうすると、4年目、5年目の将来キャッシュフローは消えてしまいますし、牛の死骸を処理するための新たなコスト(マイナスのキャッシュフロー)も発生することになります。このように、どのような投資対象でも、その将来キャッシュフローには不確実性があるわけです。

 

投資家は、不確実性がどれくらいあるかを把握して、その不確実性に見合った収益を得たいと願います。そのため、ファイナンス理論では、将来キャッシュフローの不確実性を推計することが非常に重要なテーマとなっています。そして、将来キャッシュフローの不確実性の大きさを「リスク」と呼んでいるわけです。

 

リスク=将来キャッシュフローの不確実性の大きさ

 

一般用語で「リスク」というと、火災、犯罪など、マイナス方向の出来事だけを指すことが多いですが、ファイナンス理論での「リスク」は、プラス方向・マイナス方向のどちらかにかかわらず、当初の想定からはずれることを指しています。想定より良くなるにしろ、悪くなるにしろ、想定通りにいかない可能性のことを「リスク」と呼んでいるのです。

外資系生命保険会社の運用担当 

1982年福岡生まれ。外資系生命保険会社の運用部門に勤務。京都大学理学部・東京大学大学院理学系研究科卒(素粒子物理学専攻)。
大学院時代は世界最大の素粒子実験プロジェクトの研究員として活躍。その後メガバンクにクオンツ(金融工学を駆使する専門職)として採用され、信用デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当し、ニューヨークでヘッジファンドのマネージャーを経験。2016年に転職し、現職では10兆円を超える資産の運用に携わる。
欧米文化に親しんだ国際的な金融マンであると同時に、科学や哲学における最先端の動向にも精通している。著書に『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ刊)がある。

著者紹介

連載資産運用の基礎知識――投資対象の価値を見極める「プライシング理論」

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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