新築・立て替えで「歴史の継承」にこだわる理由とは?
筆者がデザインという点でこだわってきたテーマに、歴史の継承というテーマがあります。新築・建て替えの場合には、ともすると、過去をすべて切り捨てることが可能なだけに、重要な視点だと考えています。
その手法は大きく2つ。1つは、これから始まる新しい歴史に過去のものをからめて表現するというやり方です。もう1つは、建築主の過去への思いを、新しい建物の中にまで息づかせていくというやり方です。古い建物の一部を残すというのは、その具体的な手法です。
古い建材を新しい建物に使うようになったきっかけの1つは、富山市内の中心部で再開発に携わったときのことです。
区域内に築80年以上の店舗がありました。店内に使われていた梁材10本近くを、捨てることになっていたのでいただいて、その時は、特にどうしようという目的もなしに取り置きしておきました。それを、その後に設計を手掛けた賃貸マンションに再利用したのです。
その賃貸マンションは東京・中井に建つ、染物屋さんのご自宅と工房を併設したものです。東京に染物屋さんというと驚かれるかもしれませんが、ここは4代にわたって続く伝統のある工房なのです。近くを流れる妙正寺川の水を利用し、何軒かの同業者がこの地で商売を営んできました。
工房にはいくつかの機能を持たせました。1つは、反物を制作する製造機能。もう1つは、反物を見てもらい商談をする販売機能。そして3つ目は、江戸時代から続く伝統的な染色技術を見学したり体験できたりする学習機能です。最後の4つ目は、施設の顔として、染物の今後の可能性を発信する広報機能です。
こうした機能設定から、1階には染物の商品である江戸小紋や江戸更紗の展示販売用にギャラリーを設けました。そしてここに、富山から持ってきた古い梁を再利用しました。展示用の棚の棚板として用いたのです。この梁の元の持ち主ともいえる富山の店主は、再利用の意図をくんで「こういう形で使われているのは、うれしい限りです」と、大変喜んでくださいました。
戸建て住宅の古い部材をふんだんに再利用した事例
東京・田園調布では、もともと建っていた戸建て住宅に使われていた部材を、同じ敷地に新しく建てた住居と賃貸住宅にふんだんに取り入れました。
土地の広さはおよそ260坪。そこに建っていた建物を取り壊し駐車場として活用しておくのでは税務対策にならないと、土地の半分は売却し、その資金をもとに残りの土地に自宅併設の賃貸住宅を建てました。1階を駐車場、2階を住宅とする低層タイプで、そこに30㎡ほどのワンルームタイプのロフト付き住戸を6戸確保しました。
ここでは自宅部分に様々な部材を再利用しています。
外回りでは、もとの住宅の外回りに使用していた瓦と大谷石を生かしました。玄関までのアプローチ沿いに瓦を敷き、オブジェとして再利用を果たしました。アプローチの舗装用に敷いたのは、擁壁に使用されていた大谷石です。
室内には、もともと使われていた欄間を、寝室の空調吹き出し口を覆う部材として加工し再利用しています。和室の建具にも一部使っています。床柱は、廊下に設けた本棚用に再利用しました。和室には違い棚もありました。これは、玄関に設けた靴箱の天板として生かしています。この他、障子枠やステンドグラスなどの部材も残し、新しい住まいの中でそれぞれ別の役割を果たしています。