「患者の寝ぐせ」は、病院のケアのバロメーター
「良い病院、悪い病院は見に行けばすぐわかる」。
私の尊敬する先生の中にそう仰った先生がいます。
「良い病院」というと、例えば、スタッフの態度が良い、先進的な医療を導入している。そんなイメージでしょうか。しかし先生の仰っていた「良い病院」とはもっと根本的なところにあったのです。
その先生とは、「老人の専門医療を考える会」で出会った、H先生です。私にリハビリテーションの道を示してくれた先生です。あるとき、会で企画した高齢者ケアの講演会の中で、H先生が「良い病院、悪い病院は見に行けばすぐわかる」と仰ったのです。
どういうことかというと、そのヒントは「寝ぐせ」だというのです。寝ぐせのついたままの患者さんが多いというのは寝かせきり。寝ぐせの状態のまま一日活動してるなんてない。ちゃんと起こされていたら寝ぐせは直るもの。「患者さんの寝ぐせにも気づいてないような病院はここにはないだろうけど」という言葉にドキッとしたのを覚えています。
私たちの病院は寝かせきりはなかったけれど、寝ぐせまで気にしていなかった。人間らしく生活するということは、当然、容姿だって整えるということです。病院にいようがどこにいようがそれは本来変わりないものです。そこまで気を配れているか。
一人ひとりに向き合う病院こそ「良い病院」
さらに先生は「こんなデイケアはないよね?」と言って「北国の春と風船バレー」と仰いました。北国の春とは千昌夫さんの名曲。高齢者の人が好きな曲だからとずっとそればかり歌わされ、毎日、輪になって風船バレーをする。そんなデイケアはやってないよね? と指摘されたのですが、まさにそれをやっていました。
すごいな、この先生。なんでうちの病院を見に来てないのに分かるんだろうと。そこからH先生の話にどんどん引き込まれていったわけです。
その人にも生活があるということをちゃんと考える。どこに障害があるのかばかり見るのではなく、その人の生活がどうかということが大事。リハビリの本当の成果は暮らしの中で出るものだとも先生は仰ったのです。
自分の家でその人らしく暮らすことができて、初めて病院でやったことの意味が分かってくるのだというのです。その話を聞いて、自分は今までいったい何をやってたんだと愕然としました。
自分の考えていた「良い病院」とは違ったのです。それまでの自分のやってきたことは父がつくった病院で、前からやってることを受け継いできただけでした。もちろん、その中には良いこともたくさんあった。しかしH先生との出会いによって「良い病院」とは患者さんが人間らしく生活することができ、もっと一人ひとりと向き合う病院こそ「良い病院」だと考えを改めさせられたのです。