患者の前で居眠りする看護師・・・医療現場で目にした現実
前回の続きです。
日本中の病院を見て回られていたK先生と、あるシンポジウムでご一緒させていただいたときに、こんなこともありました。
昼休みに、先生が私に「ちょっと病院でも見に行くか」と言われ、ふらっと外に出て街中にあった比較的新しい病院に入っていきました。新しいはずなのに埃っぽい階段を上がって、ふと見るとナースルームの中に車イスの患者さんの後姿があった。ナースルームに近づいてぐるっと反対側に回ってみると車イスの患者さんの前で看護師が居眠りをしているのです。
患者さんは何か用があったのか、呼ばれたのか。居眠りする看護師の前でどうしようもなく、ただただ茫然としている。ショックでした。別の病室では若い介護職の人が汗びっしょりになってオムツ替えをしている。まだ介護福祉士の資格もなく看護助手と呼ばれていた時代です。
そして病院をあとにしながらK先生は私に言ったのです。「斉藤先生ね、これが現実なんだよ。君は老人医療はそんなもんじゃない。自分たちは頑張ってるというけれど、まだまだ実態はこれだ。隣の病院にも行ってみようか? 同じだよ」と。
自分を奮い立たせてくれた、K先生の言葉
現実を思い知らされた気がしました。それまで私は、父の教えもあって自分たちや頑張ってる人たちのことだけを見て息巻いていた。そうじゃないんだなと。
「僕は、こういう病院をなくそうと思ってる。だから斉藤先生、一緒にやろうよ」
先生の言葉はショックであると同時に自分を奮い立たせてくれました。
このように、私にとって「これが自分の仕事だ」と思うきっかけとなったのは、専門的なスキルを上げたり、日々の仕事をこなしたからではありません。もちろん、それも少なからずありますが、やはり大きなきっかけは人との出会いでした。
みなさんの中には、今の仕事に自信を持てていなかったり、「これが自分の仕事だ」と胸を張って言える人は少ないかもしれません。そうであれば、できるだけ多くの人と接すること。そうすることで、仕事人として成長できるはずです。