「自分の仕事」というものを気付かせてくれた人たち
医療・介護従事者として「これが自分の仕事」と、理屈抜きに思えるものと出会うには、ただ自分の専門スキルを磨くだけでも、仕事をこなすだけでもダメ。私は、人との出会いを通じて、これが自分の仕事だと気づくことができたのです。
人との出会いというと、なんだかさらっとした感じがしますが、私自身のことを振り返ると、「自分の仕事」、それを気づかせてくれた人たちとの出会いはすごく重要だったと思うのです。
私を高齢者医療の世界に目を向けさせてくれたのは父ですが、具体的にこういうことをしろとは何も言われなかった。その代わり「こんな人に会ってみたらどうだ」「こんな会があるから出てみるか?」と、いろんなサジェスチョンをしてくれました。
人からの指摘が、自分自身を見つめるきっかけに
そのなかでも「老人の専門医療を考える会」との出会いは大きかった。その当時、老人病院といえば「終の棲家」「お金儲け」といったイメージが一般的ななか、本当の老人医療はそんなものではないと頑張っている人たちがいたのです。
会の発足に尽力され、日本の高齢者ケアの礎を築いたと言っても過言ではないK先生との出会いは、私の医療人人生で最も大きな出会いだったと思います。
薬漬け、点滴漬け、検査漬けと揶揄されてきた(やゆ)老人病院を問題視するだけでなく、そもそもそうした点数制の医療から定額制の医療に転換することを提唱するなど、日本の高齢者医療の基盤をつくってこられたのです。
とはいえ、その当時30代前半だった私はまだまだ医者としても院長としても駆け出しの域を出ておらず、自分が言うことにK先生がどんな反応をされるかというのを気にしていました。何か気に入られるようなことを言ったほうがいいのかなと思って、そういう話をすると先生はスパッと「そういうことじゃないよ。自分の考えを言ってよ」と指摘されるのです。
厳しいけれど有り難かった。自分自身を見つめさせてくれて、自分の今の立ち位置やその先を一つひとつ、先生が灯台のように照らし出してくれたわけです。この出会いがなかったら、今の私は世の中でありがちな、形だけの理事長になっていたかもしれません。