前回は、医療・介護の仕事に必要な「インフォーマル」視点とは何かを説明しました。今回は、仕事のやりがいを作り出す「人の役に立つ」という信念の重要性について、筆者の父親の思い出とともに見ていきます。

もし今「自分の現状に満足できない」としたら・・・?

もしみなさんが今、自分の現状に満足できていないとしたら「なんのために」仕事をするのかが見えにくくなっているからかもしれません。

 

たとえば私であれば、「自分を必要としてくれる人のために」仕事をしています。仕事に対するこの原点がしっかり見えているからこそ、日々の仕事に前向きに取り組むことができています。

 

この原点を確立させてくれたのは父でした。自立心が強く、太平洋戦争時に「国のために」と「予科練(海軍飛行予科練習生)」に志願して入った父は、山口県柳井市にあった柳井潜水学校分校で特殊潜航艇(爆薬を積んで敵艦に突撃する特攻兵器)の訓練中に終戦を迎えました。

 

結果的には命拾いをした父ですが、本人はそうは思えなかったそうです。自分の存在は国のために命を預けたところにあったのですから。そして地元の埼玉県川越に帰ってきてから、せめて亡くなった戦友のためにという想いと、地域のためにとお寺の境内で戦争で働き手を失った人たちのための配給のお手伝いをするようになりました。

 

父の生き方の根底には、自分が世話になった環境で、そこにいる人たちのためにやりがいを持って生きなければというものがあったのでしょう。そのうち「人のためにという仕事をしたいのならもっと勉強して福祉の仕事をしないか」と、川越市役所から誘われ、当時の厚生省がつくった日本社会事業学校(現日本社会事業大学)の夜学で学びながら川越市の福祉事業を立ち上げる仕事をするようになったのです。

自分のためではなく「誰かのために」職務を遂行する

私が小学生のとき、市役所での手腕を買われた父にある病院から声がかかりました。病院経営立て直しのために事務長をやってほしいというのです。そのとき、父には特別養護老人ホームをつくりたいという気持ちがあった。その当時は「アルツハイマー型」認知症などになって症状が重くても、ちゃんとケアを受けることができず精神病院で抑制されるようなこともあったようです。

 

さらには福祉の仕事をするなかで、医療的なことが課題となって福祉が全うできないことへの強い問題意識があったのかもしれません。

 

その後、病院の事務長を経験し経営を立て直した父は、老人ホームをつくる構想をさらに一歩進めて「老人のための病院をつくろう」と決意し、霞ヶ関中央病院(現:霞ヶ関中央クリニック)を開設し、そこから今の私たちの法人は始まりました。

 

ここで大事なのは、父がただ単に病院経営を始めたわけではないということだと私は考えています。その原点には「~のために」という強い想いと信念があった。最初は国のためだったものが、地域のため、そして自分が力になれる人のためと移っていったわけですが、いずれも自分のためではなく誰かのためにという点でつながっているのです。

本連載は、2017年10月31日刊行の書籍『医療・介護に携わる君たちへ』から抜粋したものです。その後の法改正等、最新の内容には一部対応していない可能性がございますので、あらかじめご了承ください。

医療・介護に携わる君たちへ

医療・介護に携わる君たちへ

斉藤 正身

幻冬舎メディアコンサルティング

悩める医療・介護従事者たちへ、スタッフ900人超を抱える医療・社会福祉法人の理事長が送る「心のモヤモヤ」を吹き飛ばすメッセージ! 日々、頑張っているつもりだけどなぜか満たされない、このままでいいのかと不安になる…

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