前回は、手形取引のデメリットを解決する「電子債権化・下請法等改正」を取り上げました。今回は、メガバンクが手掛けている電子記録債権化の動きを見ていきます。

「一括ファクタリングの代替」としての電子記録債権

一括ファクタリングの代替としての電子記録債権は、メガバンク系の日本電子債権機構(三菱東京UFJ銀行系)、SMBC電子債権記録(三井住友銀行系)、みずほ電子債権記録(みずほ銀行系)の3社が力を入れています。

 

一括ファクタリングも電子記録債権も、売掛債権を第三者に譲渡し、現金化する点は同じです。

 

ただ、一括ファクタリングではあらかじめ債権者、債務者が一緒に契約している専門のファクタリング会社が債権を買い取るのに対し、一括ファクタリングの代替としての電子記録債権は、銀行が買い取るほか、別の第三者が買い取ってさらに譲渡することも可能です。また、電子記録債権では債権の額面を1円単位で分割しての譲渡も可能です。

 

こうした点からメガバンクが積極的に取り組んでいます。

 

シンジケートローンの電子債権化で「流動性」が増す

その他、メガバンク系の電子債権記録機関が手掛けているのが、親会社であるメガバンクのシンジケートローンの電子債権化です。これは一般企業向けのサービスというより、金融機関向けの資産流動化サービスの一種といっていいでしょう。

 

一般に金融機関は、一対一で貸し出す相対貸出の際は、あらかじめ用意されたひな形(銀行取引約定書)に基づいて契約を結びます。

 

しかし、複数の金融機関が融資するシンジケートローンの場合、一対一での細かい交渉ができないので、より詳細な条項を盛り込んだ契約を結びます。これをコベナンツと呼びます。

 

[図表]シンジケートローンの代表的なコベナンツ

 

例えば、「財務制限条項」では、「経常利益が2期連続して赤字にならないこと」「純資産が前期比75%を下回らないこと」といった債務者の財政状況についての条件を定め、その条件をクリアできなかった場合、債務者は期限の利益を喪失し、金融機関に対して即座に貸付金の返済を行うとしたりするのです。

 

電子記録債権では、参考的記載事項の欄を利用し、任意的記載事項でもカバーしきれない、こうした財務制限条項などのさまざまな契約条項を含めて記録することができます。

 

さまざまな条件が付いたシンジケートローンも、それらの条件を含めて電子記録債権化されれば、第三者にとっては債権の内容が明確で、流動性が増すのです。

 

シンジケートローンに参加した金融機関にとっては、融資ポートフォリオの業種や地域の偏りをシンジケートローン債権の売却や入れ替えによって修正することができるわけです。また、シンジケートローンのセカンダリー・マーケットができれば、資産運用の選択肢が広がるといったメリットも期待できます。

 

企業のためのフィンテック入門

企業のためのフィンテック入門

小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

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