過去の業績ではなく、「将来性」による融資判断を
私が今後、日本の中小企業金融の王道になるのではないかと考えているのが、電子記録債権を購買の支払いシステムではなく、売上の請求システムとして利用する「トランザクション・ファイナンスⓇ」です。
日本の金融における最大の問題が、中小企業の資金調達であることはこれまでに述べてきました。5年目に入った日銀の異次元金融緩和で大企業の手元資金は非常に潤沢である一方、中小企業には金融緩和の恩恵はあまり及んでいません。
中小企業の資金調達の問題に解決策をもたらすことこそ、日本のフィンテックに一番求められることです。日銀が大量に資金供給して、日本全国の金融機関の職員が一生懸命に融資先を求めて営業していても、中小企業には資金が回っていないのが現実です。こうした状況を打開するには、融資のやり方そのものを変えることを検討していくべきでしょう。
従来の中小企業向けの融資では、過去2〜3期の決算書の審査が大前提でした。金融機関は融資先企業の決算書を審査し、それによって融資の可否や融資条件を判断していたのです。
確かに、かつてのように経済が右肩上がりで、企業の業績も過去のトレンドの延長線上で判断できたときはそれで良かったかもしれません。しかしこれだけ社会やビジネスの変化が激しい時代に、2、3年前の決算書を見て将来をどこまで確実に予測できるでしょうか。いまやヒット商品は目まぐるしく入れ替わり、大成功と思われたビジネスモデルも数年で陳腐化しています。
重要なのは、過去の業績ではなく、融資した資金が返済されるかどうかという未来です。半年後、1年後、2年後にその企業が確実に売り上げと利益を確保し、返済原資を用意できるかどうかがポイントなのです。
電子記録債権を用いて、売掛金を「担保」に
それを判断するにはなにを基準にしたらよいのでしょうか。最も確実なのは、直近の受注と売り上げの動向です。毎月の受注と売り上げの動向をきちんとチェックしていれば、かなり高い確率で半年先、1年先の業績が予想できます。そして、たとえ前年が赤字でも、将来確実に見込める売り上げを担保にとれるのであれば、その売り上げの一定割合を融資することは十分可能なはずです。
毎月の売り上げを把握し、売掛金を担保として機動的に資金供給していくことが中小企業金融の改革になるはずです。
実は、米国の中小企業金融の主流はこのやり方です。すなわち、企業の売り上げをすべて担保にとって融資するのです。といっても、多数の売上先と契約書を交わして複雑な事務手続きを取るわけではありません。貸付先の企業と銀行とが売り上げを担保に入れるという契約を結ぶだけです。米国では中小企業の売掛金のかなりの部分が銀行の担保になっていると言われています。
米国でこのやり方が成立するのは、日本のような譲渡禁止特約という制度そのものが存在せず、売掛金の譲渡が企業の自由になるからです。日本では、逆に売上先の承諾がなければ原則的に担保にはなりません。
この制度上の違いが、日本における売掛金担保融資の普及を妨げてきましたが、電子記録債権になっていれば、売上先の承諾をとらなくても銀行の担保にすることができます。電子記録債権を活用して、企業の毎月の売り上げをモニタリングするとともに、担保にすることが、日本の中小企業における資金繰りの大きな改善につながるのです。