企業の下請法遵守の体制作りとして期待される「電子記録債権」

前回は、中小企業の資金調達の手段として役立つ、「電子記録債権」の活用法を取り上げました。今回は、企業の下請法遵守の体制作りとして期待される「電子記録債権」について見ていきます。

IT技術を応用して各種規制を遵守する「レグテック」

レグテック(Reg Tech)とはRegulation(規制)とTechnology(テクノロジー)の造語です。

 

リーマン・ショック後、世界的に金融機関に対する規制が強化され、それに伴って金融機関が負担する管理コストが大幅に増大しました。そこで、IT技術を応用して各種規制を遵守するためのコストを抑えようという動きが欧米の金融機関を中心に進んでおり、これはレグテックと呼ばれています。

 

例えば、口座開設における本人確認を行うAI、コンプライアンス管理の統合システム、中央銀行による金融機関の検査や各種手続きを一括して処理できるポータルサイトなどが実用化されています。

 

日本でも金融機関による規制対応サービスとしてのレグテックに対するニーズは高まりつつあります。2016年10月には三菱東京UFJ銀行が、資金洗浄やテロリストによる取引などの不正対策としてレグテックを活用した実証実験をイギリスのHSBC、シンガポールのオーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)と提携して実施すると報道されました。

電話で発注し、発注書交付を忘れた場合は下請法違反に

このようにレグテックは金融業界において注目されていますが、その必要性や有用性はなにも金融界に限りません。

 

一般企業においても商取引においてはさまざまな規制があり、そのなかには個人情報の保護や残業時間の管理など近年、大幅に強化されているものもあります。以前の連載で触れた下請法の運用強化もその一つです。

 

下請法は一般企業の経理や購買の方にとって非常に関心の高い法律の一つです。実際、下請法は最も違反してしまいやすい法律の一つだと言っていいと思います。例えば、下請事業者に対し、電話で発注して発注書を交付するのを忘れた場合、下請法3条1項に定める書面の交付義務違反となります。

 

また、次のような事例も違反となってしまいます。

 

下請事業者から9月30日に納品されたものの、受け付けた担当者が繁忙のため検収が翌日の10月1日になってしまい、10月末締めして翌月11月30日に支払いを行った。こうした場合、期日管理は発注した会社の基準ではなく、あくまでも下請事業者の基準となります。したがって、9月30日納品、11月30日支払いでは、下請代金の支払が下請事業者の給付を受領してから60日以上の経過後に行われていたことになり、下請法2条の2第1項違反となります。

 

ヒット映画の台詞に「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ」というのがありましたが、「下請法の違反は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ」といってもいいケースが実際は多いのではないかと思います。企業の現場レベルで違反を起こしやすいのが下請法なのです。

 

このため経営側として、下請法をきちんと遵守する管理体制の構築には細心の注意が必要となります。

産業基盤、金融基盤の高度化に「電子記録債権」は不可欠

さらに本書の第2章でも述べたように下請法の運用強化がどんどん進められています。今年7月には、セブン-イレブン・ジャパンが下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けました。企業の下請法の遵法体制構築を求める動きは待ったなしです。

 

このように、日本の大企業にとって今最も必要とされているレグテックは、下請法に対応するためのシステムかもしれません。この下請法対応のレグテックとして、注目を集めているのが電子記録債権を使ったシステム化なのです。

 

もともと、電子記録債権は親事業者(債務者)、下請事業者(債権者)相互の同意なしに発生させることも変更させることもできません。電子記録債権は期日通りに支払わなければならないですし、債務者が一方的に減額することもできません。この電子記録債権の本来的な性格が下請事業者の保護につながると期待されています。

 

また、下請代金が電子記録債権で支払われることで、下請法第4条に定められた「下請代金の支払遅延の禁止」、「下請代金の減額の禁止」なども確実に遵守されます。

 

さらに電子記録債権の新たな利用方法として、前項で紹介したPOファイナンスⓇ電子記録債権による発注があげられます。電子記録債権に下請法3条1項で定める「下請事業者の給付の内容」など必要事項を参考記録として記録すれば、この電子記録債権を発生させ、その情報を提供することで下請法3条2項により「書面の交付」があったものと見なされます。実際に、公正取引委員会に見解を求めたところ、懸念は見当たらないとのコメントがありました。

 

このように電子記録債権を支払手段としてだけでなく、発注手段から一貫したシステムとして新たに設計することが、企業の下請法遵守の体制作りとしてのレグテックにつながることが期待されているのです。

 

このように電子記録債権を活用したシステム化を進めていくことが、大企業にとっては下請法遵守のコンプライアンス体制構築と業務の合理化につながり、中小企業にとっては資金調達の改善につながります。日本の社会全体で電子記録債権化を推進していくことは産業基盤、金融基盤の高度化という点で非常に重要であると思われます。

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介

連載電子記録債権を活用した「企業金融スキーム」

企業のためのフィンテック入門

企業のためのフィンテック入門

小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

圧倒的な「コスト削減」「業務効率化」「キャッシュフロー改善」を実現する最新技術とは? フィンテックは一時の流行の枠を超え、次のステージに入っているという見方が大勢を占める。 ビットコインのリスクなどマイナス要…

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