前回は、医師・患者間で「慢性疼痛治療」の治療目標を共有することの重要性を説明しました。今回は、「肩」の健康にも予防医療の考え方を活かすべき理由を見ていきます。

重要なのは「今後、いかに傷めないようにするか」

肩関節の疾患は、低年齢化しているだけではなく、高齢社会に突入した日本は2025年問題も抱えていますので、今後は高齢者の患者さんも増えることが予想されます。

 

2025年は、これまで国を支えてきた団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる年です。それ以降は2200万人、4人に1人が75歳以上という超高齢社会が到来し、医療、介護、福祉サービスへの需要が高まり、社会保障財政のバランスが崩れると指摘され問題になっています。そうなると四十肩・五十肩どころか、加齢による組織の変性で生じる腱板断裂の発症リスクも高まることは必至です。

 

これまでは、「もう年だから」と肩が動かないことを受け入れ、ADLやQOLが低下しても仕方のないことと諦めてしまう高齢者が多く見受けられました。そのため、足は動くのに歩かなくなって行動範囲も狭くなり、ロコモティブシンドロームを招いて要介護に至るなど健康寿命(健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間)にも大きく影響を与えていました。

 

しかし、見方を変えれば寿命が延びたことは、それだけ人生を楽しめる時間が増えたともいえます。実際に、60代、70代でも若々しくアクティブに活動している人が増え、テニスやゴルフ、登山などを楽しんでいます。

 

以前は考えられませんでしたが、現在は80歳でも肩の手術を受ける人が増えています。水泳を続けている70歳の患者さんは、マスターズで記録を出したいからクロールができるように手術を受けたいと申し出てきました。

 

そういう人たちのADLやQOLを維持する、あるいは向上させるためにも、肩を傷めてから治療するのではなく、いかに傷めないようにするかという予防がこれからは重要になってくると思われます。

 

そして、肩を傷めてしまった患者さんに対しては、正しい診断をして適切な治療を行うことが医師には求められてきます。患者さん側も、自分の抱えている疾患の正しい知識を持ち、必要な治療を早期に受けるという意識を持つことが必要です。それが、患者さん自身の体と心を守り、有意義な人生を送ることにつながります。

 

肩の疾患は命に関わるものではないため、多くの人に危機感がありません。しかし、肩が自由に動かせることで、皆さんは日常生活のさまざまな動作を可能にし、スポーツや趣味を楽しむなど活動がアクティブになり、やりたいことを実現して人生をより豊かなものにしていることを認識していただきたいと思います。

姿勢の維持に不可欠な下半身の強化は「肩」にも好影響

健康寿命の最大の敵は、自立度の低下や寝たきりになることです。その要因の第1位は「運動器の障害」です。腰痛や膝痛などが足腰を衰えさせ、寝たきりになるリスクを高めることは、誰でも予測できることです。

 

しかし、姿勢が肩関節の状態に大きな影響を与えていますので、上半身と下半身は相互に影響し合っています。したがって、下半身を強化することは姿勢の維持に不可欠で、当然のことながら肩関節にも良い影響をもたします。

 

そこで次回からは、体幹や下半身を鍛える基礎的な運動療法やストレッチも紹介しておきましょう。

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