経営者が気になるのは、過去ではなく「会社の今後」
前回の続きです。
①と②で単年度の資金繰り表を用い、現状把握ができました。そうしたら次にすべきは、長期スパンでの資金繰り表の作成です。先々の資金繰りについて見通しを立て、事業計画表として活用します。5年後、10年後20年後にも経営が継続していけるような、経営戦略を立てるためです。
過去の決算書や確定申告書からデータを積み重ねて、未来の経営状況を読み取っていく、これが経営コンサルで最大の肝になる部分です。
実際のところ、経営者が気になるのは、済んでしまった過去のことより、これから会社がどうなっていくかのほうです。ですから、未来の予測を立てることが、税理士に最も期待されることです。
過去の会計データを何年も積み上げていくと、さまざまな予測が立てられます。たとえば、減価償却があと3年でゼロになるのであれば、そのままいくと3年後には経費が減ることになります。経営的にシミュレーションをしてみて、そのままいくのがいいのか、あるいは新たな設備に買い換えるのがいいのかなどの経営判断をしていく必要があります。こうした戦略や計画を立てるために、長期スパンでの事業計画書が必要です。
予測シミュレーションの手法こそ、税理士の腕の見せ所
数字やデータをどう組み合わせてシミュレーションしていくかというのは、税理士としての腕が問われる部分であり、個性が出る部分です。コンピューターにはできないことが、まだまだたくさんあるのです。
予測の立て方はいろいろあると思いますが一例として挙げると、私の場合は、資金繰り表を長期的に並べていき、デッドクロス(手残りがマイナスになる時点)を見ます。今までの収入や経費、借入金返済や税金などの推移から、今後の手残りの推移が見えてくるので、それを20年先、30年先まで並べて予測するのです。
下記の図表を見てください。経過年数1年目が現在です。そこから2年目、3年目と時系列に予測を並べていき、最終的に33年目まで分かるようになっています。
[図表]デッドクロスに注意しなければならない
賃貸経営は借入をした最初のうちは利息が多く、経費がかかるので手残りが多いのですが、元利均等返済でやっている場合、時間が経過すればするほど元本の返済比率が高くなっていきます。やがて経費になる利息が減っていき、結果的に税金が増えていきます。それでも返済額は変わらないので、手残りはだんだんと少なくなっていってしまいます。そして、やがて手残りがマイナスに転じるときが訪れます。
この方の場合は、注意すべきは18年目です。このとき、手残りがマイナスに転じています。つまり、これ以降は確実に経営が赤字化することが明白です。デッドクロスが訪れる18年目までに何をどうしていくか、というのが課題です。
私のところに来る依頼者は多くの場合、手残りがマイナスになってしまってから「どうしよう」と困って相談に駆け込んでくるのですが、本当は容易に先読みできることなのです。
赤字化の事態が起こることは税理士なら少し調べればわかるはずですから、先回りして教えてあげることが大切です。それこそが、まさに経営コンサルティングです。