前回は、金融機関の借入を円滑にする「経営コンサルティング」の手法を取り上げました。今回は、自分が知識を持たない業界の会社を「経営コンサルティング」する方法を見ていきます。

「TKC」などの情報システムを活用する

経営コンサルティングで難しいことといえば、顧客の業界的な事情にこちらが詳しくない場合です。業界ごとに特殊性があるので、オールラウンドに理解するのは難しいでしょう。

 

ただ、そういった場合でも、わからないからといって曖昧な返答や専門用語で顧客を煙に巻くのではなく、顧客とともに学んでいく姿勢が必要です。TKC(企業の経営改善を支援する1万人超の税理士集団)などの情報システムを利用して、さまざまな情報を収集すればアドバイスは可能です。

 

たとえば、TKCのデータベースにアクセスすると、業界ごとの資金繰りの指標などの情報も収集することができ、申告時の平均値がわかります。それを顧客の情報と比較すると、どこに問題点があるかがわかりやすいでしょう。

 

また、TKCに登録すると、効率的で標準的な事務所経営に役立つ、業務管理システムを利用することができるようになります。それらを利用すると、会計知識がまったくないパート職員でも直感的にソフトを使うことができ、自動的に申告書ができてしまうくらい精度が高いソフトも提供されています。

 

つまり、税理士にとっては至れり尽くせりのようなサービスといえます。未知の業種のクライアントから依頼があったときでも、まずTKCで基本的な情報を集めて、対応することは十分にできるはずです。

 

ただし、その数字の読み取り方や活用のしかたは、業界を知っているかどうかに左右される部分も多くあります。たとえば、大家業のように借入が多い業界、製造業のように売掛金が多い業界など、業界特有の事情と照らし合わせられるかどうかというのは、税理士の個人差になってくるでしょう。この点については、経験と実績を積んでコンサルティングの制度を高めていく努力が必要になります。

「その業界に詳しい税理士」を紹介するのもひとつの手

それでも、顧客とのコミュニケーションがうまく取れれば、慣れないうちからでもコンサルティングはできます。要は、誠実なコンサルを行い、お客様の信頼を得られるかどうかなのです。

 

自分が不得意なジャンルであるとか、不案内な業界であった場合にやってはいけないことは、顧客を放置することです。もし自分の手に負えない部分が出てきたら、より詳しい税理士を紹介するなどして、顧客の不利益にならないようにすることが大事です。

 

以前、まったく面識のない税理士から、賃貸業の確定申告だけをお願いしたいという依頼が来たことがあります。その税理士は顧客の相続税の申告業務を受けていたのですが、同時に賃貸経営の確定申告も引き受けることになってしまったようです。しかし、自分は賃貸業には詳しくなく、過去にやった経験もないため、自信がなかったのでしょう。それで、ネットなどで不動産に詳しい私を探し当て、アプローチをしてきてくれました。

 

この税理士などは、とても良心的だと思います。自信のないことを無理に抱え込んで失敗するよりは、相応しい人に仕事を回したほうが顧客のためになります。

 

わからない仕事については、わからないなりに頑張って勉強して対応するか、顧客を失うリスクがあっても顧客のために別の税理士を紹介するか、どちらかを選んでほしいと思います。それが、税理士としての倫理観というものだと私は考えます。

「税理士」不要時代

「税理士」不要時代

渡邊 浩滋

幻冬舎メディアコンサルティング

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