経費を増やす節税対策が、経営的に正しいとは限らない
ところで、顧客に対して行う財務的なアドバイスの一つで、焦点を定めたいのが「無駄な支出を控える」ことです。「出て行くお金を少なくする」というのは顧客にとってもシンプルで分かりやすく、そのポイントさえ理解できれば自分でも実行できるので、経営改善の大きな柱となります。
経営者に特に理解させたいのは、経費を増やして節税することが必ずしも経営的に正しい判断とは限らないということです。税金対策の本などを読むと、あたかも経費を多くして納税額を抑えることが企業にとってメリットの大きいことのように書かれています。それで「とにかく経費を計上して節税しなければ」と思い込んでいる経営者が多くいます。しかし、経費は正しく使えばいいですが、無駄に使ってしまうと、単にお金を使って終わりになってしまいます。
正しい経費の使い方というのは、たとえば、しかるべきタイミングで設備投資をしたり、従業員の福利厚生を手厚くして働きやすい環境を整えたりといったことです。これらの経費は直接的もしくは間接的に会社の収益アップに繋がります。
無駄な経費の使い方とは、社長が思いつきで社用車を購入したり、経費を計上したいがために特段必要ではないものにお金を使ったりする場合です。これらはその場限りの消費で終わってしまいやすく、会社の利益にはほとんど繋がりません。
無駄な経費を使うより、納税後の手残りは大きい
念のため、無駄に経費を使った場合と、使わずにおいた場合とで、最終的な手残り額を比較してみましょう。
下記の図表を見ながら読んでください。
[図表]経費を使うことが節税になるのか
まず、無駄に経費で使ってしまったのが上の場合です。この場合は500万円を経費計上したことで、納税額が198万円になりました。その結果、手残りは122万円でした。
次に、経費を使わなかった下の場合です。500万円の経費計上がない分、納税額が402万円に上がります。「節税」という観点だけで見ると、損をしているように見えます。しかしながら、手残りが418万円もあります。これを次の期の資金として活用すれば、選択肢が広がるはずです。
たとえ税金を30%納めたとしても、70%は手元に残るのです。無駄な経費は100%消えてしまって後に何も残りません。そのように考えれば、経営的にどちらを選択すべきか一目瞭然です。
こういう説明をお客様にすると「そうだったのか!」と気づき、いかに自分が今まで間違った節税をしていたかに思い至ります。そして、「正しく経費を使い、無駄な支出をなくしていくには、どうしたらいいか」を真剣に考えるようになります。
お客様の側に「聴く態度」や「知りたい気持ち」ができた段階で、具体的に支出を抑える方法を提案していきます。
賃貸経営でチェックしたい「無駄な支出」とは?
賃貸経営の場合は、次のような項目をチェックしていきます。
●「生命保険(リスクをカバーできる保険に入っているか。重複して入っている保険があるなど、整理できるものはないか)
●火災保険(新築のときに入ったままだと、割高なことが多い)
●消防用設備等の法定点検(相場よりも高く支払っていないか)
●管理会社に控除されている項目(何の費用かわからずに差し引かれていないか。相場からして適切な手数料であるか)
●ケーブルテレビの契約料(1室当たりいくらかかっているか。割高ではないか)
●エレベーターの保守点検(業者によって費用がピンキリ。他社と比較してみることが大事)
●借入の金利(返済プランに無理はないか。リスケや借り換えの必要はないか)
税理士に勧められるまま、あまり検討せずに入ってしまった保険や、何となく最初の流れで同じ業者に頼み続けている設備管理などを一つずつ見直していくと、意外にあちこちに無駄や節約できる点があったりします。一つひとつの支出は小さくても、それがいくつも重なれば大きな額になることも多いので侮れません。
経営者自身が、無駄を見つけてなくそうとする意識を持つことが大切です。税理士は、その意識を育てるようにコンサルティングをしていきます。