診療報酬の削減で、現場では人材不足が深刻化
小泉政権の「聖域なき構造改革」では、社会保障関係費が最大のターゲットとみなされ、2002年度からの5年間で自然増のうち総額1.1兆円が削減されました。また、2002年度の診療報酬改定では、医師の技術料やスタッフの人件費などに当たる診療報酬の「本体」が史上初めて引き下げられました。
国が医療費を一律に削減した結果、全国で表面化したのがすでに紹介した病院医療の崩壊です。現場では十分な人件費を確保できず、過酷な負担に嫌気がさした勤務医たちが次々と病院を去りました。
経済学では、「コスト」「アクセス」「サービスの質」の3つの要素を両立させることは不可能だとされています。「聖域なき構造改革」が医療現場にもたらした当時の混乱は、「コスト」(医療費)を削減することで、救急対応などの「アクセス」が阻害され、それが「サービス」(医療の質)低下をもたらすというものでした。経済の定説を奇しくも裏付けたのです。
高齢化により「国民皆保険」は存続の危機に
国民皆保険の実現から半世紀以上が経った今、この仕組みが揺らいでいます。背景にあるのは、これまで見てきた高齢化に伴う国と地方財政の悪化です。皮肉なことに、国民皆保険制度の導入によって国民の平均余命が伸びたことで医療費が膨らみ、この制度を脅かしてしまったのです。
国は国民皆保険を前提にした公的医療保険を将来にわたって存続させようと躍起になっています。
日本の公的医療保険には、企業の社員や家族が加入する職域保険と、自営業や無職の人、企業を定年退職した人たちが加入する国民健康保険(国保)があり、2008年には、75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度が新たに創設されました。
これらのうち職域保険には、全国健康保険協会が運営する協会けんぽと大企業の健康保険組合が運営する組合健保などがありますが、現役世代が加入する医療保険の財政はどれも厳しい状況です。
協会けんぽでは、加入者が負担する保険料のベースとなる保険料率が47都道府県ごとに異なり、2016年度の全国平均では10%でした。協会けんぽでは、この料率を「負担の限界」としています。
一方、全国の健康保険組合が加入する健康保険組合連合会(健保連)によると1398組合の平均保険料率は2015年度には9.168%で、前年度比0・068ポイント上昇しました。
これらのうち316組合(前年度比13組合増)では保険料率が協会けんぽ並みかそれを超えました。健保連では、同年度には半数近い651組合が赤字になる見込みだとしています。