前回は、政府による財政健全化計画で検討が進む「医療費削減」の概要を説明しました。今回は、医療費削減が病院崩壊を招く理由を見ていきます。

国と地方の財源を圧迫する「国民医療費」

20年間で6割増加した国民の医療費厚生労働省によると、2014年度の国民医療費は40兆8071億円でした。

 

国民医療費とは、病気やけがで医療機関を受診した際、治療にかかる費用の推計額です。歯科医院での治療費や薬局での調剤費、訪問看護の医療費なども含まれますが、保険診療の対象のみをカウントしているので、たとえば正常な分娩や歯科の金属材料などは含まれません。

 

国民医療費は、2006年度の33兆1276億円から一貫して増え続けており、2013年度に初めて40兆円の大台に乗りました。1994年には25兆7908億円だったので、この20年間で約6割も増加したことになり、その財源を国や地方自治体の公費と医療保険の保険料、患者の窓口負担で賄っています。

 

これが国と地方の財源を圧迫しているのです。たとえば2017年度予算の政府案ベースでは、医療費の国庫負担は11兆4458億円。医療だけでなく年金などの社会保障関係費の総額だと32兆4735億円です。

 

これは、一般会計の総額97兆4547億円のほぼ3割に当たります。2007年度にはこの割合が25.5%だったので、社会保障関係費の比重がこの10年間で確実に高まっていることが分かります。

高齢者1人当たりの医療費は、若年層の4倍以上に

高齢化や医療技術の進歩など、社会保障関係費が増える背景にはさまざまな要因があり、こうした伸びは「自然増」と呼ばれます。中でも大きいとされるのが高齢化の影響です。

 

人口1人当たりの国民医療費を年代別に比較すると一目瞭然です。まず、2014年度の40兆8071億円を人口1人当たりに換算すると32万1100円となります。国民一人ひとりにこれだけの医療費がかかっていることに若い人たちは驚かれるかもしれません。

 

これを年代別に見ると65歳未満の若年層は17万9600円で、このうち医療機関を受診することが比較的少ない15〜44歳は11万6600円となっています。これに対して65歳以上は72万4400円と、若年層のほぼ4倍、15〜44歳と比べると実に6倍を超えます。中でも75歳以上は90万7300円という高さであり、これからの高齢化の進行は、医療費の急増を意味します。

 

こうした中、近年では医療費の世代間格差をいかに解消させるかが盛んに議論されています。2017年度の予算編成では、医療費の患者負担が大きくなりすぎるのを防ぐ「高額療養費制度」が見直され、現役世代並みに所得がある70歳以上の高齢者の自己負担額の上限が引き上げられました。

 

年代だけでなく地域間の医療費格差も目立ちます。2014年度の1人当たり国民医療費を都道府県別に見ると、高知県の42万1700円が最高で、これに長崎県の39万6600円、鹿児島県の39万600円が続きました。

 

これに対して最低は埼玉県の27万8100円で、次いで千葉県が27万9700円、神奈川県が28万5700円などでした。高知県と埼玉県の格差は1.5倍で、概ね〝西高東低〞の傾向です。このことからも、医療費の一律な削減がいかに危ういかが分かります。

本連載は、2017年5月30日刊行の書籍『病院崩壊』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

病院崩壊

病院崩壊

吉田 静雄

幻冬舎メディアコンサルティング

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