再生のポイントが固定費削減なのは明らかだったが・・・
私たちはロジックとセンスの2つの世界の住人だと言いましたが、ビジネスの世界ではロジックが優先されます。
損益計算書を見た金融機関の担当者が「人件費率が高いから不要な人員の整理をすべきでは?」と提案する場面は再生の現場で何度も目にしています。
かつてJALが経営危機に陥った時、私たち外野からは連日報道される内容を聞くだけで、明らかに固定費がかかり過ぎて赤字に落ち込んだのだなと予想できました。不採算路線が多数あることやパイロットの給与が高いこと、昔の高い予定利率で支給を決めているため将来負担するべき年金の額が膨大になることなど、既得権益に保護された固定費の総額が尋常な額ではないことが分かりました。
そのため、JAL再生のポイントは極めてシンプルだと考えられました。固定費を削減すればよいのです。ロジックだけで説明でき実行可能な固定費の削減は簡単です。
大きな壁として立ち塞がった「年金の減額」
しかしJALの場合、非常に難しかったのは従業員の給与カットや退職後の年金のカット、既に退職したOBの年金カットまで踏み込んで行う必要があったことです。
それはロジック(カネ)の世界だけの話ではなく、従業員のモチベーションへの影響もありますし、退職してJALが破綻しても確定給付型年金は保護されるOBの合意も取り付ける必要があったからです。
年金は労働債権ですから法的整理を実施したとしても裁判所に優先債権として保護される、つまり年金の減額はできない建前になっていたからです。
この点は、JAL再生にかかわった政府の関係者や再生タスクフォースのチームのメンバーは非常に大変だったと思います。気持ちの面まで考慮に入れなければ進まない固定費削減であり、センスの世界をも考慮した見事な再生実務でした。
「目に見える世界」と「目に見えない世界」のインタラクティブな関係が本当に大事だという再生事例です。稲盛和夫氏という経済界の重鎮が登場した理由が分かります。