前回は、4大経営資源の概要について説明しました。今回は、「キャッシュフローの好転」だけでは事業再生が難しい理由を見ていきます。

経営が行き詰まると、まず「固定費の削減」を行うが…

キャッシュフローを増大させるためには、売上を上げるか固定費を削減するか、あるいは在庫を減らすしかありません。単純に考えれば、最も頭を使わなくて済む手法が固定費の削減です。相見積もりを取って金額と品質の双方を勘案し、最も合理的な価格を提示した業者に発注することが王道になります。

 

備品や消耗品などはこうした方法で簡単に削減が可能ですから、勘定科目ごとに細かく「勘定分析」を実施し、収益に貢献していない費目をバッサバッサと切り詰めます。

 

公認会計士や税理士は自分の専門分野であるためか、とても細かく「勘定分析」を行います。「そこまで時間をかけなくても……」というほど固定費削減に時間をかけます。

 

固定費削減は最も効果が高く、すぐにキャッシュフローに対するプラスの効果を生じます。当たり前です。キャッシュの出を止めるわけですから。固定費の削減はとても簡単な方法で大して頭も使いません。

 

しかし公認会計士や税理士は仕事をした気になります。なぜなら自分の専門分野だからです。

金額換算できない「従業員のモチベーション」

しかしながら、中にはそう簡単に削減できない費目もあります。サプライチェーンの中で重要なプロセスを担っている業者への外注費や自社の人件費などです。

 

特に自社の人件費を削減の対象とする場合には、「ロジック─カネ」の世界の話だけでは終わりません。その結果は従業員のモチベーションに必ず影響を与えます。

 

給与削減は人件費という損益計算書上の支出を確実に下げて利益を押し上げますから、金融機関にとても喜ばれます。金融機関の担当者としては融資先のキャッシュフローが好転し、返済可能原資が確保できたわけですから、とても望ましい話なわけです。

 

ところが従業員のモチベーションは金額換算できません。その影響を金額的に測定できないので損益計算書で表現することもできません。目に見えないため、議論の対象に上がってきづらいということです。

 

以前、私が担当した案件に、地方で温泉旅館を複数経営する会社がありました。グループ全体で20名程度いた役員には、普段会社にも出てこないという人が何人かいました。

 

中には、あちらの世界(あちらの世界とは直観の世界ではありません)の方もいて、辞めてもらうのにどうしようかと頭を悩ませていたのです。すぐに役員会を招集してもらい不要な役員の退任と、残りの役員の減俸を決議してもらい、その後の株主総会でも決議に至りました。

 

その後、退任した役員(あちらの世界の方)から私に「話がある」と連絡があり、実際に会って成り行きを説明することになりました。さすがにビビリながら説明したのですが、最終的に「お前の言うことは全く筋が通っている」と、納得してもらえました。

 

あちらの世界の方でしたが、非常にロジカルな思考の持ち主で拍子抜けした覚えがあります。

本連載は、2017年5月26日刊行の書籍『「事業再生」の嘘と真実 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「事業再生」の嘘と真実

「事業再生」の嘘と真実

弓削 一幸

幻冬舎メディアコンサルティング

コスト削減、管理会計、人事評価制度── ロジックだけに頼るのは今日で終わり! 中小企業約100社を経営危機から救った事業再生のプロが、稼げる事業体質作りを指南。 中小企業・小規模事業者には厳しい経営環境が続いてお…

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