前回は、管理会計というロジックのメリットと、限界について説明しました。今回は、企業の会計における債務超過や含み損について、どのような解決方法があるのか見ていきます。

約9億円の「実質債務超過」にあったC社

連載第15回で紹介したC社の例を引き続き見ていきましょう。C社の財務デューデリジェンスを実施したところ、約9億円の実質債務超過にありました。実質債務超過とは、保有する全ての資産負債を時価に引き直した場合、純資産(資産から負債を控除した数値)がマイナスになることを言います。

 

赤字の継続や過去に購入した土地等の価格が大きく下落した時などに生じ、会社経営からすれば非常に良くない状況です。簡単に言うと、事業を廃業した場合に9億円の負債の返済ができなくなっているという状態です。

 

特に、C社のように建設業を営む場合、「経審(=経営事項審査)」と呼ばれる審査を受けなければなりません。

 

経審とは、公共工事を発注者(地方公共団体等)から直接請け負おうとする建設業者が必ず受けなければならない審査で、経営状況、経営規模、技術力及びその他の審査項目(社会性等)について数値化し評価するものです。

 

工事の発注者は、この経審の評価を参考にしつつ、競争入札に参加しようとする建設業者について資格審査を行うこととされ、審査結果を点数化し、順位付け、格付けを行っています。

含み損を持たせたまま、資産や負債を計上し続けると…

この格付けによって公共工事の金額規模別の入札参加条件(例えば、2億円以上の公共工事の競争入札への参加の可否)が決まります。

 

9億円の実質債務超過ですから、単純に会計帳簿に反映させれば経審の点数は非常に低くなります。公共工事の発注者からの格付けも低くなるため、大規模工事の競争入札に参加できません。

 

また、含み損失を会計帳簿に反映し会計上損失を認識したとしても、その損失が税務上、損金処理できるか(税務上、課税所得を減算させる効果を持つか)どうかは別問題で、多くの場合、損金処理ができません。

 

とはいえ、含み損を持たせたまま資産や負債を計上し続けることは会計の目的から大きく乖離することになりますし、実質債務超過解消年数等を一つの指標として融資先のランク付けを行う金融機関から見ても、非常に見づらい決算書が毎期提出されることとなります。

 

このような非常にアンビバレント(二律背反)な状況が複数顕在化している中、多くの目的を同時に達成できる唯一の方法として、私は「税制非適格の会社分割(吸収分割)」の組織再編手法を提案し実行しました。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2017年5月26日刊行の書籍『「事業再生」の嘘と真実 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「事業再生」の嘘と真実

「事業再生」の嘘と真実

弓削 一幸

幻冬舎メディアコンサルティング

コスト削減、管理会計、人事評価制度── ロジックだけに頼るのは今日で終わり! 中小企業約100社を経営危機から救った事業再生のプロが、稼げる事業体質作りを指南。 中小企業・小規模事業者には厳しい経営環境が続いてお…

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